最終年度である本年度は、これまでの研究内容を取りまとめ、本研究課題の目的である「財務危機状態にある企業の取締役等に対する責任減免制度の在り方」について分析したうえで、これを論文として公表した(下記論文1および2)。 わが国の会社補償制度は、取締役の「悪意又は重大な過失に基づく」職務執行に起因する責任との関係では補償を認めておらず(会社法430条の2第2項3号)、また、確定判決に基づく賠償金の支払と和解金の支払とを同列に扱うこととしているが(同条第1項2号イ・ロ)、このような現行制度は、取締役に対する実効的な補償を提供し得るものとは評価できない。このことから本研究は、第一に、当該補償制度の実効性を高めるためにも、取締役に重過失が認められる場合における補償禁止の対象から「和解金の支払」の場合を除外する(会社法430条の2第2項3号参照)旨の法改正を行ってはどうかの提案を行った。 また、わが国において、取締役が会社法429条1項に基づく責任を負担する場合(大半が債務超過企業の事例と考えられる)の中には、既に当該企業が法的倒産手続に移行済である場合も一定数含まれるものと解されるが、企業と取締役との間で「補償契約」を締結するという仕組み上(会社法430条の2第1項参照)、会社補償制度は倒産手続下においてはほとんど機能し得ない(一般債権者たる取締役が、他の債権者に優先して補償債務の履行を求めることはできないため)。このことから本研究は、第二に、このような企業の倒産局面における補償制度の実効性をさらに高めるためにも、カナダ倒産法の例を参考に、倒産企業の取締役が負担することとなる損害賠償債務の一部を免除することを認める旨の法改正を行ってはどうかとの提案を行った。
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