研究課題/領域番号 |
20K22065
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
大下 隼 早稲田大学, 法学学術院, 助手 (50880663)
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研究期間 (年度) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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キーワード | 国際法 / 大量破壊兵器の不拡散 / 輸出管理 / 国連安全保障理事会 / 国際原子力機関 / 化学兵器禁止機関 |
研究実績の概要 |
本年度は、核不拡散条約(NPT)、化学兵器禁止条約(CWC)、安保理決議1540の輸出管理義務の実施過程に関する研究を行った。これら条約・決議が設定する法益を保護するにあたって、国際原子力機関(IAEA)はNPTの、化学兵器禁止機関(OPCW)はCWCの、1540委員会は安保理決議1540の輸出管理義務について、国際実施を行ってきている。そのため、具体的には、(1)各国際機構・機関が輸出管理義務の解釈・適用に関して公表してきた公式文書の内容、(2)各国際機構・機関の設立条約・文書において当該公式文書の採択の根拠となる任務、(3)当該任務に基づいて採択した公式文書がいかなる組織構造のもとでどのよな権威性が持たされているのか、について検討した。 上記の検討を通じて、1. IAEAは原子力の平和利用権の促進の前提として輸出管理義務をとらえて、NPTだけでなく安保理決議1540にも言及して国内法に必要な要素を具体化していること、2. OPCWは輸出管理義務そのものではなく、CWC上の国内実施義務の1つとして輸出管理を取り扱い、規範内容というより動態的な国内実施の過程につき援助文書を作成していること、3. 1540委員会については規範の具体化方法としては解釈の側面ではなく、加盟国の報告書を踏まえたボトムアップ方式で適用方法に関する指針を示すという適用方法の明確化という手法が採られ、しかもそれを社会状況に合わせて更新するという国際実施サイクルを形成していること、をそれぞれ明らかにした。また、IAEAやOPCWは設立文書に規定される構成・手続の範囲で上記見解の権威性を担保しようとしているが、1540委員会は立法決議との批判を踏まえて、国連憲章第31条にもとづき安保理会合に非理事国を招請することで1540委員会の国際実施サイクルに国連加盟国の見解を広く反映させる回路が整えていることを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現段階での進捗状況は、輸出管理にかかわる国際実施機関の現実の実行を詳細に明らかにすることができた段階である。つまり、国際機構・機関の公式文書や議事録の分析の積み重ねにより、輸出管理義務の解釈にまで踏み込むことがなかなか難しい現実を把握することができ、この段階までの実績として、1540委員会に関する論文を公表したのち、IAEAとOPCWに関する研究内容を含めて博士論文として本年2月に所属大学に提出したところである。 ただし、博士論文では原子力や化学技術、生物技術の平和利用権という、大量破壊兵器不拡散とバランスをとっていかなければならない国際法上の権利の分析という課題が明らかになっている。この課題が明らかになったこと自体は研究上の成果ともいえるが、計画以上に進んでいるとまではいえないため、おおむね順調に進展しているものと考える。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、輸出管理の実施過程のさらなる研究と合わせて、上記でも述べた原子力・化学技術・生物技術の平和利用権(以下、あわせて平和利用権)の解釈・適用を分析対象としたい。輸出管理義務についてはとりわけ技術後進国側からは平和利用権行使の妨げになると主張されてきており、とくにIAEAやOPCWにおいてはいかに平和利用権を促進しながら輸出管理を行うかが、現実の課題として認識されてきているからである。具体的には、(1)平和利用権利行使のための立法を含めた国内実施の現実、(2)IAEAやOPCWにおける平和利用権の促進に関する実行、(3)平和利用権と輸出管理義務の関係性、について研究を進めていくこととしたい。 このために、IAEAやOPCWなどの国際機関への資料請求や、日本国内の実務家にインタビューをする機会を持つことで、実務と理論を架け橋することを目指したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
購入予定であった軍縮不拡散法に関する洋書1冊の発売日が延期されたために、少額ではあるが、使用機会を逸してしまった。次年度にこの洋書を購入することで、研究を更に進めていきたい。
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