大量破壊兵器(WMD)開発に利用可能な物資には通常民生用途で用いられる汎用品が含まれているため、通常の貿易過程を隠れ蓑に当該物資獲得を目論む国やテロリストへの対策として、WMD関連条約や安保理決議1540には輸出管理義務が規定される。この義務の特徴は、技術の発展状況や安全保障環境の変化に合わせる動態性にある。本研究は、この特徴から導かれる国際法的課題を明らかにすることを目的とする。 輸出管理義務の動態性は、たとえば安保理決議1540第3項(d)上の「適切で効果的な」輸出管理という文言に含意される。輸出管理先進国の日本では、輸出管理義務の発展状況を踏まえながら、立法・行政・司法を協働させ、①WMD拡散リスクの特定⇒②リスクの評価⇒③評価に基づく管理品目や刑罰の更新⇒①……を繰り返す、リスク管理を組み込んだ国内実施サイクルにより、義務の動態性を受け止めている。 他方、安保理決議1540の実施機関である1540委員会は、①各国による国内実施状況の報告⇒②安保理決議によるフィードバック⇒①……を繰り返す国際実施サイクルにより、義務の動態性を受け止めている。ただし、安全保障・経済事情の相違やリスク環境の激しい変化を踏まえ、規範内容の一般化・固定化を行う「解釈」より、広い意味での解釈の一部である規範の「適用」上参照すべき関連事実を指摘する実践が、上記②に色濃く表れている。そのため、「適用」という法技術の国際法上の意義を改めて考える必要がある(輸出管理の理論的課題)。 また、安保理の指摘に正当性を担保するため、全国連加盟国に見解表明の機会が与えられている。EUも、輸出管理制度の正当性担保のため、域内企業や関連産業団体を含め、関連当事者をEU立法手続に組み込んでいる。このようなリスクコミュニケーションの発展が、今後の輸出管理の成功を下支えすると考えられる(輸出管理の制度論的課題)。
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