研究課題/領域番号 |
20K22066
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
原田 香菜 早稲田大学, 社会科学総合学術院(先端社会科学研究所), 助手 (90879826)
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研究期間 (年度) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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キーワード | ヒト生体試料 / 判例研究 / 比較法 / 生殖補助医療 / Human Tissue Act / HFEA / No property principle / Yearworth判決 |
研究実績の概要 |
本研究は、人体に由来する細胞・組織・DNAサンプル等の生体試料・情報を用いた医療・創薬・生物学研究の成果と生じる利益の帰属について、英国・アメリカ等の判例および制定法を比較法的手法により分析し、日本の現状に則した法的判断基準の具体的なあり方を検討するものである。 今日の医療技術および医学・生物学研究の発展に伴い、臓器の移植、再生医療への利用をはじめとした細胞・組織の採取・培養、または生殖補助医療におけるヒト配偶子・胚に関する諸問題において、用いられるヒト生体試料の取扱いに関する課題が顕在化している。 ヒト生体試料の帰属・移転について、従来の民法における物一般の規定の適用だけでは相応しくない事例が多数現れていることを受け、ヒト生体試料に特化し、その提供・取得および使用に伴う権利移転と、その権利の射程を定めるルールの整備を目し、判例の蓄積を持つ他国における判断基準との比較に基づき分析を進めている。 2020年度は、特にヒト配偶子・胚に関する英国・豪州の制定法の調査と、それらの取り扱いをめぐる紛争において、ヒト配偶子・胚の法的位置付けを示した英国・豪州・アメリカの判例を分析し、生殖補助医療に関わる分野における上記の国々の裁判所の判断について、現在に至るまでの変遷を整理した。 これらの国々で、従来はCommon lawに基づき、ヒト身体の一部あるいはそこから分離された物質を”property”として扱うことを禁じる"no property principle"が存在するにもかかわらず、ヒトの身体に由来する配偶子・胚について”property”のの成否を新たに示した事例を題材に、具体的な判断基準に関する分析を行った。 さらに、ヒト生体試料・研究成果と利益をめぐる事例が蓄積されているアメリカの民事判例を対象に、ヒト生体試料およびその研究から生じる利益の帰属に関する判断について調査分析を継続する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「ヒト生体試料とそれらに関わる利益をめぐる法的紛争」および「ヒト生体試料の取扱い・移転を司るルールの在り方」に関して、アメリカ・英国およびオーストラリアの判例と制定法の調査し、その成果をまとめた研究論文と並行して博士論文の執筆を進めている。
2020年度後半は、生殖補助医療に用いられるヒト配偶子(卵子および精子)の取り扱いについて判断した英国判例 ”Jonathan Yearworth and Others v. North Bristol NHS Trust (2009)” を題材に、判例研究論文を執筆し、学内紀要に投稿(受理され、2021年5月現在刊行準備中)した。 この判例は、従来、権利主体である人物の身体の一部あるいはそこから分離された物質について、権利の客体となる”property”として扱うことを禁じる"no property principle" が存在する英国で、ヒトの身体に由来する物質である凍結精子の毀損について、”property”の権利に基づく判断がなされ、物質の採取元となった人物の"property"の成立が認められた初の事例である。ただし、同判例中における”property”の認定は、あくまで限定的なものとされ、裁判所は「過失の不法行為における注意義務違反に基づく請求の目的」で、他の構成によって救済することのできない原告のために、形式的かつ限定的に、保管された凍結精子に対する”property”の成立を認めたにとどまる。 本年度は“No property principle”とその例外を示す過去の判例の変遷、英国Yearworth判例、および同判例を先例とする近時のオーストラリア判例の分析して、それらにおけるヒト生体試料の法的性質の解釈を本邦の事例に活かせるか、その際の課題について検討した。この成果は、博士論文本体の支柱の一つとしても組み込むものとする。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、ヒト生体試料・付随情報を用いた医療・創薬・生物学研究の成果とそこから生じる利益の帰属について、特にアメリカの判例を中心として分析を継続し、ヒト生体試料等と生じる利益の帰属に関する法的判断基準の抽出を目指す。
具体的な方策として、ヒト生体試料を用いた医学・生物学研究から生じる利益について、以下の各ケースに対する裁判所の判断を分析する。すなわち、(ⅰ)試料を用いた研究の「学術的な成果」(研究論文等)、(ⅱ) 研究結果に基づいた疾患の治療方法または検査方法の確立等、試料提供者・研究実施機関以外の第三者に対しても広く間接的に与えられる「社会への影響」、そして、(ⅲ) 研究結果や使用したヒト生体試料の加工等により、有用な細胞株の樹立、創薬または医療材料開発、特許の取得等の「経済的利益」に分類し、それぞれの判断基準および相互の関連について分析を進めたい。 特に、ヒト生体試料・研究成果と利益の帰属をめぐる法的紛争事例が1980年代以降に比較的多く蓄積されているアメリカを対象として、試料の法的性質について言及し、その帰属に関する判断が述べられた判例の分類と整理を試みる。これらの判例の分析に基づき、ヒト生体試料・それらを用いた研究から生じる利益帰属に関する法的な判断の基準について考察する。ここから、我が国におけるヒト生体試料を用いた研究の成果と派生する利益の帰属について、現状に則した法的な判断基準のあり方を検討し、その具体的な要件と想定する効果について、試論を示すことを、次年度の目標とする。
上述の調査・分析を通して、医学・生物学・薬学研究と臨床における生体試料の取扱い、およびそこから派生する利益の帰属に関する判断基準について検討し、ヒト生体試料の移転を司るルールの在り方との関連にも注視しながら、現在および将来の我が国におけるヒト生体試料をめぐる法整備の方向性について、考察をまとめる。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症の影響により、年度内に渡航調査準備のために予定していた支出が減少し、また、同感染症の影響で海外発注した一部物品の発送・納入が次年度となったため、当初の使用計画を後ろだおしすることとなり、次年度使用額が生じた。 次年度使用額は、2021年4月以降、当初前年度に予定されていた調査準備および物品・資料の購入のため、使用する。
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