本研究では、ヒト身体に由来する細胞・組織・配偶子・DNAサンプル等の生体試料および情報を用いた医療と創薬、医学・生物学研究の成果とそこから生じる利益の帰属について、英国・アメリカ等の判例、制定法を比較法的手法により分析し、わが国の現状に適する法的判断基準について検討してきた。本課題の最終年度となる本年度は、上記検討に基づき、今後のわが国における規制のあり方について一案を示し学位論文として提出するとともに、下記の諸問題について研究した。 (1)ヒト生体試料を用いた医学・生物学研究から生じる利益の帰属が争点となったアメリカ判例について、(ⅰ)試料を用いた研究の「学術的な成果」、(ⅱ) 研究結果に基づいた疾患の治療方法または検査方法の確立等の「社会への影響」、(ⅲ)有用な細胞株の樹立、創薬または医療材料開発、特許の取得等の「経済的利益」の3類型に分類し、それぞれの判断基準と相互の関連について論文を執筆した。 (2)生殖補助医療に用いられるヒト配偶子(卵子および精子)の法的取り扱いについて判断した英国判例を題材に、わが国の現状との比較をおこない、今後の課題を示した研究論文が掲載された。 (3)本研究で判例分析等をとおして得られた知見をもとに、臨床におけるヒト由来試料等の取扱いに係る論点と留意点について整理し、診療・看護等で得た医療情報の取扱いに関する事項とあわせて示した論文を提出、機関誌に掲載された。 (4)わが国における生殖補助医療の実施及び情報管理と配偶子・胚の提供体制の整備、生まれた子の出自を知る権利について、2020年12月に成立した生殖補助医療特例法の成立との関係で残された課題について整理し、学会年次カンファレンスで報告した。 (5)NIPT等の出生前検査をめぐる近時の動向について、妊婦等への情報提供・遺伝カウンセリングと新たな認証制度の導入に関する事項を整理し、報告した。
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