現在社会問題となっている特殊詐欺は、組織的に分業して行われるという特殊性があり、それにより、共犯論上のさまざまな問題を生じさせている。本研究では、従来の因果的共犯論を基礎とした共犯論では、それらに十分に対応することができないという問題意識から、因果的共犯論を再構成することを試みる。そして、そのような立場から、①承継的共同正犯の問題、②包括的共謀の問題、③「抜き」の問題(共謀の射程、共犯関係の解消の問題)について、具体的な解決指針を示すことを予定していた。 令和3年度は、上記研究計画のうち、③「抜き」の問題(共謀の射程、共犯関係の解消の問題)を検討する予定であったが、近時の学説の議論状況を鑑みて、予定を変更した。具体的には、近時、実務は(共同正犯について)因果的共犯論を採用していないとの問題意識から、共同正犯に因果的共犯論を適用しない立場が有力に主張されるようになった。そこで、そのような見解の当否を検討し、それが共同正犯の処罰根拠を十分に説明しうるものではないこと、実務は因果的共犯論を採用していないとの分析は誤りであることを明らかにすることができた。また、そのような見解よりも、むしろ本研究が基礎とする因果的共犯論を再構成した立場の方が、むしろ実務の立場と整合することも明らかにすることができた。 なお、上記研究計画の③「抜き」の問題(共謀の射程、共犯関係の解消の問題)についても、これまでの研究成果から、一定の解決指針を得ている。
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