本研究は、経済的利害と一般的信頼がアメリカ市民の貿易選好にどのような影響を与えるか検討するものである。具体的には、アメリカの産業構造がサービス業中心に移行するにつれて、経済的利害の影響が低下する一方で一般的信頼の影響が増しているという仮説をたて、それを検証した。 特に2021年度は、2020年度の学会発表等で明らかになった計量分析についての問題点の解消に取り組んだ。すなわち、貿易がもたらす利害についてのデータが不足しており、経済的利害の貿易選好に対する影響が産業構造によってどう変化するか十分に検証できていなかったという問題である。この問題の解消のため、アメリカの下院選挙区を単位として貿易から得ている利益についてのデータセットを作成した。具体的には、選挙区単位でセクター別の輸出額と、その輸出によって支えられている雇用数を算出したものである。作成にはリサーチ・アシスタントを雇用する予定であったが、作業手順の見直しの結果、既存のデータを元に研究代表者のみで作成することが可能であった。 作成したデータセットを利用して検証した結果、仮説の通り、地域経済がサービス業中心になるに連れて当該地域の市民の貿易選好が経済的利害ではなく一般的信頼に強く影響されるようになることを確認できた。さらに、経済的利害の重要性の低下が市民レベルだけではなく議会レベルでも見られるかどうかを検証し、その研究成果の一部を Pacific and American Studies 掲載論文として刊行した。現在は研究成果の核の部分である市民の貿易選好の分析を査読誌に投稿中であり、査読コメントに応じて適切な修正を行いつつ早期に刊行することを目指している。
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