最終年度である2021年度は、共和主義や財産所有デモクラシー論の検討を通じて、現代における民主的な政治経済体制の構想を洗練させることに努めた。あらゆる市民に非支配としての自由をもたらそうとする共和主義は、資本主義か社会主義かにかかわらず経済の民主的コントロールを要請する規範的な立脚点となる。ジョン・ロールズによって再提起された財産所有デモクラシーの理念は左右双方の多様な解釈に開かれているが、共和主義の観点から擁護することで、富および権力の拡散を通じて民主的なコントロールを可能にする政治経済体制として明確に位置づけられるようになる。財産所有デモクラシーを制度的に具体化する当初分配の諸施策も、経済的な下限と上限の確立を求める共和主義に基づいて再解釈することで、従来の想定よりも豊かなメニューを備えることになると考えられる。 このほか、企業が持ちうる多面的な権力とその正統性に関する諸学説や、「政治的CSR」と呼ばれる企業の準政府的機能を民主的に正統化する方策などについても検討を進めてきた。これらの検討により、企業が組織外で行使する権力を正統化するためにも、多様なステークホルダーの参加と熟議を通じた企業統治の実現が求められることを明らかにした。 研究期間の全体を通じて、共和主義やステークホルダー・デモクラシーをめぐる議論を発展させることで、企業統治や資本主義経済の民主化を導きうる規範的な構想を明らかにすることができた。
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