研究課題/領域番号 |
20K22087
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研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
湯淺 史朗 一橋大学, 経済研究所, 特任講師 (30876694)
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研究期間 (年度) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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キーワード | 資産価格バブル / 動学的均衡モデル / バブルの発生 / マクロ経済学 / 合理的バブル |
研究実績の概要 |
2020年度は資産価格バブルの発生時点の決定を説明する理論の改良に主眼を置いて研究を進めた。交付された補助金はこれらの分析を進める上で必要な計算機の購入に用いられた。2020年度の研究の進展は主に三種類に分けられる。第一に、資産価格バブルの発生時点(正確にはバブルが発生する可能性がある期間の最初の期間)を経済モデル内で一意に決定するための仮定を明らかにした。この発見により、バブルの発生時点についての理論がより精緻なものとなった。第二に、利子率とバブル発生時点の理論的関係を明らかにした。利子率が、モデルで内生的に決定されるある水準を下回った時点から、バブルが発生する可能性が出てくることが明らかとなった。この性質は、動学的一般均衡モデルで広く見られるオイラー方程式の存在にのみ依存して生じるものであるため、他の資産価格バブルモデルにこの理論を用いた場合にも存在することが期待される、ある程度の一般性を持った性質である。今後、様々なモデルにこの理論を応用した場合に利子率とバブルの発生時点について様々な理論的性質が明らかになるものと思われる。第三に、経済成長率とバブルの発生時点についての理論的関係を明らかにした。経済成長率が内生的に決定されるある種のマクロ経済モデルにおいて、資産価格バブルの存在条件について分析した先行研究は多数存在し、バブルの存在条件は経済成長率に依存して決定されることが明らかにされている。2020年度の分析では、これらの先行研究とは異なり、経済成長率がバブルの発生時点の決定に及ぼす影響及びその作用メカニズムを明らかにすることができた。これらの結果は他の先行研究の経済モデル、特に内生成長モデルにも応用可能であると推察され、今後の更なる研究の発展につながる実りある成果が得られたと言える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2020年度の研究の進捗は、分析面では期待以上の成果があったと評価できる。当初の計画では、バブルの発生時点決定についての基礎理論をより精緻にすること、及びバブルの発生時点の決定と利子率の理論的関係を明らかにすることが2020年度の分析における目標であった。2020年度はこれら二つの目標達成に加えて、一国の経済成長率がバブルの発生時点の決定に及ぼす影響とその理論的メカニズムについて明らかにすることができた。 一方、研究成果の公表、及び社会への還元についての計画目標は達成できなかった。当初の計画では年度末に学会報告等への投稿を予定していたが、分析の遅れと感染症(新型コロナ)の流行による学会開催予定の不透明性などが原因でこれらを断念せざるを得なかった。学会報告を通して研究成果に対するコメントや他の研究者の反応を得ることが当該研究成果の論文への取りまとめをする上で重要であるため、個別に国内外の同分野の研究者とコンタクトをはかり、当該成果について議論する機会を獲得することが今後必要になると考えられる。 分析面における期待以上の成果があった一方で、成果公表の目標の未達成であったことを考慮して、本年度においては計画は少し遅れているという自己評価に至った。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度は各研究成果の取りまとめ、学術誌への投稿に専念する。マクロ経済学、資産価格バブルの国内外の研究者との交流を図り、研究成果に対するコメントや反応を参考にしながら投稿先学術誌を吟味する。現段階では、(1)バブルの発生時点決定についての基礎理論的な研究、(2)バブルの発生時点決定と利子率の理論的関係についての研究、(3)バブルの発生時点決定と経済成長率の関係についての研究、それぞれ1本ずつの論文として仕上げ、合計3本の論文として取りまとめることを計画している。(1)についてはすでに多数の研究者からコメント等を受けているが、(2)と(3)については未だ十分に他の研究者からのコメント、批評等を受けていない。今後は(1)の学術誌への投稿を行いながら後者2つのワークショップ、学会等での発表、及び個別に他の研究者との会合等を行い論文のブラッシュアップを図る。(3)については当初の計画に含まれていなかった内容であり、論文執筆に時間がかかることが予想され年度内に学術誌への投稿まで漕ぎ着ける可能性は高くないと考えている。従って(1)(2)より優先度を下げて研究を進める予定である。 当初の計画で研究発表の旅費に計上していた予算であるが、感染症の動向如何によっては国内外の移動が制限され、当該研究遂行期間内に使用されない可能性があることが2020年度の経験により判明した。従って旅費に計上していた予算が使用されない可能性が高いと判断された場合には、この予算をリサーチアシスタントの雇用に企て、論文執筆における先行研究サーベイ等の効率化に使用することを計画している。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の研究計画で研究成果の学会投稿等のために用いる予定であった英文校閲費用が使用されなかったために次年度使用額が生じた。分析自体の遅れと、世界的に流行している新型コロナ感染症の動向が改善せず、学会開催予定に不確実性があったために投稿を断念したことがこの予算を使用できなかった主な原因である。また、参考資料の入手に用いる予定であった物品費が使用されなかったこと、分析に使用するために当初購入することを計画していた計算機より性能が良く、かつ購入費用も低い別の計算機を購入したことも次年度使用額が生じたことの副次的な原因となっている。 次年度使用額は論文の執筆に必要となる参考資料の購入と、リサーチアシスタントの雇用に使用することを計画している。
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