研究課題/領域番号 |
20K22089
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研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
高橋 宏承 一橋大学, 大学院経営管理研究科, 特任講師(ジュニアフェロー) (00876972)
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研究期間 (年度) |
2020-09-11 – 2023-03-31
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キーワード | 組織内ネットワーク / マルチエージェント・シミュレーション / ネットワーク創発 / 組織内孤立 / 情報共有 / 情報共有行動 / 情報専有行動 |
研究実績の概要 |
2021年度に行った研究活動は主に2つである。その2つとは、研究計画の段階で想定していた組織内ネットワーク創発モデルの再検討とネットワーク創発モデルの発展可能性の模索である。それぞれの概要と意義・重要性について以下に説明する。 まず、2021年度に行ったことは、ネットワーク創発のシミュレーション・モデルの妥当性を高めるための先行研究整理と定量調査に向けた変数や測定尺度を決定したことである。大規模サンプルのデータを収集することが困難であるというネットワーク分析の問題点を解決するために、先行研究をベースにweb調査等に落とし込むことのできる測定尺度を先行研究の整理を行い、決定した。これは、シミュレーション研究やネットワーク研究で言及されている問題点の解決や新たな分析手法の潮流を作ることにも寄与する。より具体的には、シミュレーション研究におけるサーベイデータとシミュレーションを組み合わせたハイブリッド研究による方法論的進歩とネットワーク研究における大規模かつ複数サンプルの収集が困難であるという問題の解決を可能とする。 次に、先述のモデルの精緻化と並行してネットワーク創発モデルがどのように経営現象に対して展開可能な議論なのかを2つの論文執筆を通して模索した。その2つとは、①ネットワーク創発モデルに依拠した組織内での孤立構成員の発生要因とメカニズムの分析を行ったシミュレーション研究、②レビューを中心とした組織内情報共有行動と情報専有行動に影響を及ぼす先行要因の検討を行った研究である。どちらの研究も現在、一橋大学マネジメント・イノベーション研究センターのワーキングペーパーにレジストリーされている。両研究は、ネットワーク創発モデルの精緻化を通じて得られた知見を援用し、シミュレーションやネットワーク論の視座から両テーマについて分析することの意義と可能性を示せた点が大きな貢献である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
主に3つの理由が存在する。コロナウイルスの関係による国内外の学会活動が十分に行えていない点とネットワーク・データの収集が難航している点、研究意義の精緻化の重要性を修正した点にある。 まず、1点目は、国内外の学会での関係性構築やそれに伴うフィードバックを十分に得られていない点にある。これは、オンライン開催や一部開催が中止されたことに起因している。2点目は、ネットワーク・データを収集するため、当初想定していたアンケート配布などの方法では難しい状況になった点にある。そのため、方針を転換し、web調査に落とし込めるような形に修正するのに時間を要した。3点目は、ネットワーク創発研究がもたらす意義を精緻化することの重要性を示すことが学術・実務の両業界で必要であるということを昨今の社会情勢から認識したことに起因している。この研究意義を示すために、孤立構成員研究と情報共有研究という2つの展開を先んじて進めたことも進捗状況がやや遅れている原因となっている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、ネットワーク創発モデルの精緻化をサーベイデータと複合して行うという軸を持ちつつも、一部、注力する点に変更をしながら研究を進める。 まず、本研究の軸となるネットワーク創発モデルの精緻化を行うために、これまで行ってきたレビューや測定尺度の探索を終えて、実際に調査を行う。その上で、モデルの再検討を2022年度の前半で終えることを目的とする。この段階での研究上の課題はそれほどないものの、精緻化を通じた新規の知見をどの程度導出できるかを現状の調査プロセスの内容を検討しながら行う必要性は残る。 次に、そのモデルを活用し、いくつかの発展可能性のある研究に展開していくことを2022年度の後半に想定している。この点についても、2021年度に取り組んでいた本研究テーマの意義を示すために行った孤立構成員研究や情報共有研究に対して、精緻化されたネットワーク創発モデルを適用し、より現実に即した新規性のある研究を行うことを目標とする。2022年度の後半に行う展開研究が当初明確に予定していたものではなく、当初の研究計画よりもこの点は注力の程度が高まっている部分として変更することを想定している。ただし、想定している研究展開については、どの程度モデルとの親和性があるのかを検討しながら行う必要があるため、その点については課題として残される。そのため、展開領域としての適切性を考慮し、別の議論も模索しながら研究を進めなくてはならない。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究の遅れに伴う調査の実施が行えなかった点が主たる理由である。2022年度に調査を行うことでおおよそすべての次年度使用額を活用する予定である。残ったものに関しては、プリンターのインクや紙などの消耗品に支出する。
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