本研究の成果は大きく2つ存在する。1つ目は、組織内ネットワークの創発にかかわる組織構成員の行動をモデル化するための調査を行った点にある。最終年度に、ネットワーキング行動(ネットワークを形成・維持・活用する行動)がどのようにネットワーク創発にかかわるのかの調査を行った。これは、研究の蓄積が乏しかった、ネットワーキング行動概念を用いて、その先行要因とネットワーク構造との関係を明らかにするために行われた。この調査を通じてネットワークが創発する要因をより精緻に捉え、プロセス分析に必要なシミュレーション・モデルの構築に役立てることが今後可能になる。構築したモデルを用いて、分析を行い、結果を論文化する予定である。 2つ目は、組織構成員の外向性とその分布が離職やコミットメントとの関係が指摘される組織内孤立(人間関係がうまく構築できていない構成員)にどのように影響を与えるのかをネットワーク構造創発のプロセス分析から研究成果を論文として発表(採択済み)した点である。この研究では、ネットワークが創発するプロセスとその結果を分析しながら、孤立構成員に着目し、その分析を行った。本研究の成果は、外向性の低い構成員の集団形成効果(仲間内で集まる効果)によって、外向性の低い構成員の方が相対的に孤立しにくい可能性があるということをマルチエージェント・シミュレーションを通じて指摘した点にある。 この2つの研究の理論的・実務的に意義は、ネットワーク構造が創発するプロセスを中心に、その先行要因だけでなく、メカニズムの分析や既存研究で十分に議論されてこなかった組織内孤立について焦点を当てた点にある。2つの成果は、ネットワーク論の視座とミクロ行動からマクロ現象を説明するマルチエージェント・シミュレーション法を採用するという独特の手法上の組み合わせが存在していて、手法上の発展にも一部貢献していると考えられる。
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