本年度は、地域労働市場の集積が個人の職探しの行動に与える影響を分析するために、理論モデルの分析、及び「就業構造基本調査」のミクロデータを用いた計量分析を行った。 前年度に行った分析から、都市雇用圏を地域単位とする都市集積が非就業者の職探しの確率に与える影響は、学歴、性別、年齢、婚姻状況、子供の有無といった個人属性によって異なることが明らかになっていた。しかし、そのメカニズムがわかりにくいという問題が残されていた。このような異質性のメカニズムを詳細に明らかにするために、本年度は注目するべき個人属性を再検討し、労働生産性に影響を与え得る学歴と性別、社会経済的地位に影響を与え得る家族構成に注目することとした。 分析の結果、都市集積は賃金上昇や職探しの直接費用を軽減することを通じて学歴の低い男性の職探しを促すことが示された。一方、女性に関しては社会経済的地位が重要であることが示された。すなわち、都市集積は、未婚女性の職探しを促すが、既婚で子供のいる女性に対しては職探しを抑制させるという結果が示された。また、既婚で子供のいない女性に対しては有意な影響は得られなかった。これらは、結婚や出産といったライフイベントが女性の就労を抑制するという効果が特に都市部で強くなることを示唆している。 この研究成果には、労働市場における集積効果の異質性を示したという点で学術的な貢献があるとともに、地方創生の議論や潜在的な労働力を活用することで労働力不足解消を目指す政策を検討する上での有用な知見を提供するという点でも貢献がある。すなわち、地方創生と女性の潜在的な労働力の活用という政策を検討するためには、相互の関係性に注目し、同時に課題に取り組む必要があることが示唆される。
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