本研究は、新型コロナウィルス感染症流行が企業の社会的責任(CSR)活動に対する投資家の投資行動及び企業評価に与える影響を明らかにした。具体的には、1)企業の社会的活動に関する評価や株価をデータとした実証分析で、感染症流行前後の投資行動の変化を定量的に捉え、2)個人投資家を対象としたアンケート調査で、企業評価の変化内容を明らかにした。分析1)からは、新型コロナウィルス感染症流行が大企業と中小企業(SME)でESG(環境・社会・ガバナンス)パフォーマンスと組織レジリエンスとの関係に与える影響を検討した。相互作用項を含めたランダム効果分析を用いた結果、感染症流行後、環境パフォーマンスが良い大企業はSMEよりも投資家関係が良好であることが示された。また、感染症流行後、ESGパフォーマンスは大企業の売上高に正の影響を与えたが、SMEには負の影響を与えた。さらに詳細な分析では、投資家関係はESG問題のうち環境面だけに影響される一方で、消費者関係はESG問題の全ての面に影響されることが分かった。分析2)からは、個人投資家の心理はSRI(社会的責任投資)に影響するが、その影響の仕方は収益志向と社会的志向の社会的動機付けによって異なることが分かった。収益志向の要素はSRIに負の影響を与える一方で、社会的志向の社会的課題はSRIに正の影響を与えた。本研究の学術的貢献は、新型コロナウィルス感染症流行と個人投資家のSRI行動との関係メカニズムを明確化した点、先行研究と異なる国間・業種間・規模間の相違点と特徴を明らかにした点である。加えて、これらの知見は、経営者や政策立案者が国毎・企業規模毎の投資家の志向等を検討する上で役立つと考えられる。
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