研究課題/領域番号 |
20K22119
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
三浦 憲 京都大学, 農学研究科, 助教 (00876097)
|
研究期間 (年度) |
2020-09-11 – 2022-03-31
|
キーワード | 公共財 / 共同体 / 伝統的権威 / 信頼 / アフリカ |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、ザンビア農村部における公共財の共同体管理の実態を例に、公共財の不十分な管理の要因とそれへの対処策を、フィールド実験の手法を援用して実証的に探究することで、経済学の視点から開発現場に貢献することである。特に、共同体のリーダーである首長あるいは村長の役割の解明、および、彼らの行動を梃に共同体内の協調行動を促す施策の提案、を具体的な目的として設定した。そのための研究実施計画ではフィールド実験を伴う現地調査をザンビア北部のカッパーベルト県の農村を対象に実施する予定であった。しかし世界的な新型コロナウィルス感染症の流行により、2021年5月時点においても調査実施の目途がたっていない。 そのため、本年度は公開されているデータを用いて村長や首長といった伝統的権威に対する信頼度の規定要因を探索した。より具体的には、ザンビアで2014年に実施されたAfrobarometer調査データに衛生環境や役所(district office)の所在地といった地理情報および選挙区の情報を紐づけることでデータを構築し分析を行った。 その結果、マラリアのリスクが高い地域に居住する個人や役所から遠い場所に住む個人が伝統的権威に厚い信頼を寄せていた。これら地域特性に加えて、伝統的権威と同じ民族であることや教育水準などの個人属性も信頼度に対して説明力を有していた。マラリアの感染リスクが高いなど衛生環境条件が劣悪な地域に住む回答者ほど、コミュニティーの会合への参加頻度が高いことも明らかとなった。このような地域では協調行動が採用されやすい環境にあり、この背後には伝統的権威に対する高い信頼が機能していることが示唆される。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究課題の進捗状況は、国際的な新型コロナウィルス感染症の流行により、現地調査の目途がたたなかったため研究計画および研究方法の大幅な変更を余儀なくされているという観点からは必ずしも満足いくものではない。ただし、公開されているデータを用いた分析を実施することで、現地調査をデザインするうえで重要な示唆を得ることができた。また状況に応じて、早急に調査を実施できるように、質問票の作成準備やデータ収集環境の整備を進めている。特に、世界銀行が開発したデータ収集アプリを用いた調査業務の管理及び収集されたデータの格納に必要な独自サーバーの構築を完了させた。
|
今後の研究の推進方策 |
新型コロナウィルス感染症の収束の目途が立たないため、基本的には公開データによる分析を今年度に引き続き推進していく。 まず、上記の結果は地域の土壌条件など、昨今のアフリカにおける実証論文で標準的に使用されている地理データの全てを制御しきれていない。そのため、標高・河川・気候条件など利用可能な地理データを追加的に収集し、これらを制御してもなお、本研究で報告した結果が変化しないことを確認する作業が必要である。 また、信頼度に関する指標が順序を持つ離散変数であることから最尤法に基づく推計手法も試し、推計方法に関する結果の頑健性を確認する。 さらに上記の結果は探索的な分析に依拠しており、伝統的権威に対する高い信頼を醸成・維持するメカニズムを解明しきれていない。この点の検証は本年度に実施したような地域特性に焦点を当てた実証分析ではなく、異なるマイクロデータを用いたより詳細な検討が必要となる。特に、ザンビアの文脈で見逃せない伝統的権威の役割の一つは土地配分であり、土地配分における権威を十分に利用して地域住民から信頼度を勝ち得ている可能性がある。そのため、国家機能が浸透していない農村部において、どのような規則に従い伝統的権威が土地(特に農地)を割り振っているのかを理解する必要がある。この点を検証するため、農家家計調査データを用いた分析を今後実施していく。
|
次年度使用額が生じた理由 |
国際的な新型コロナウィルス感染症の流行のため、調査計画を実行できず、計上していた旅費及び調査に使用する人件費などを使用しなかったため、次年度使用額が生じた。これらについては、研究を推進していくために研究補助業務に関わる人件費や謝金、または研究集会開催時の経費として本年度使用する予定である。
|