本研究課題では、多国籍企業の租税回避行動を研究開発投資(R&D)の側面から考察してきた。多国籍企業の租税回避行動は、独立企業間価格原則(The Arm's Length Princi@le: ALP)に基づいて調査されており、その原則の下では「同等の条件の下で」非関連企業との取引価格と比べて多国籍企業内の取引価格が不当に操作されているかどうかを検証するいうものである。しかし、多くの多国籍企業はR&Dなどを通じて、独自の製品や技術を開発しており、「同等の条件」の比較可能な取引を探すことは困難である。そのため、多国籍企業は製品差別化に向けたR&D投資を、従来研究されてきた競争を緩和させる効果のほかに、租税回避をしやすくすることで得られる利益も考慮して決定している可能性がある。 以上の観点から、本研究課題では(i)水平的な製品差別化と(ii)垂直的な製品差別化という異なった種類の製品差別化を考慮に入れた理論的分析を行ってきた。いずれの研究でも、ALPの強化は多国籍企業の租税回避行動を妨げ、その結果税収の増加という望ましい効果だけではなく、R&Dの減少を通じた消費者の利益の減少という望ましくない効果をもたらすことが判明し、移転価格規制が社会にとって望ましくない状況を生み出しうる条件を明らかにした。 本研究課題の成果として、研究(i)はディスカッションペーパーとして公開しており、すでに査読付海外学術誌に投稿している最中である。研究(ii)についても、国際学会での報告を複数回済ませており、近いうちにディスカッションペーパーとして公開することが可能な状況となっている。また、本研究の関連研究の論文が国際学術誌であるInternational Economic Review誌に受理された。本研究期間終了後にも、本研究課題(i)および(ii)を早期に査読付学術誌の掲載を目指すように努めていく。
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