自然災害が国際貿易に与える影響について、特に自然災害への適応という点に着目しながら計量経済学の手法を用いて分析を進めた。近年の先行研究では、災害によってどの程度被害が発生したかを明らかにするだけでなく、どのような条件や要因により災害被害の大きさが決まるのかといった適応行動・適応能力についても検討がおこなわれている。そうした研究によると、自然災害による被害の大きさは、災害そのものの規模だけでなく社会経済的要因が関係することがわかっている。そこで災害と貿易の関係に焦点を当てた本研究では、貿易の分野においても自然災害への適応がみられるのかを検討した。被害を受ける主体の社会的・経済的背景を分析に取り入れることにより、今後の気候変動適応策を進めていく上で有益な視点を提供し得ることが期待される。また、これらは途上国など気候変動に脆弱な国や被災した国が復旧・再建の過程で「より良い復興(Build Back Better)」を目指す上でも重要である。 分析の結果、自然災害の発生によって貿易額が減少することがわかり、これまでの予備的な分析結果と同様に自然災害による国際貿易への負の影響が示された。さらに、新たなデータを分析に追加したことにより、過去に頻繁に災害のあった国ほど貿易損失が軽減されていることが明らかとなった。また、アメリカのノートルダム大学が公開している気候変動適応に関するND-GAIN指標を用いた分析からは、気候変動への脆弱性が高い国では自然災害による貿易損失がみられた一方で、適応への環境が整った国では貿易額が増加する傾向にあった。本年度は、これらの成果をまとめて国内の環境経済学分野の学会で報告をおこなった。より詳細に自然災害の影響の経路と適応について考察するためにはさらなる分析をおこなう必要があり、今後の課題として引き続き研究を続けている。
|