研究課題/領域番号 |
20K22132
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
安田 昌平 日本大学, 経済学部, 助教 (10875686)
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研究期間 (年度) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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キーワード | 主観的災害リスク / 客観的災害リスク / 防災行動 / アンケート調査 / ベイズ更新 |
研究実績の概要 |
2020年度においては、既存の災害リスク情報の提供と主観的リスク認知に関する理論研究、および主観的リスク認知と防災行動に関する実証研究を整理した。ここから、実証研究ではベイズ更新モデルが概ね支持される結果が得られている一方で、主観的リスク認知と防災行動の関係については、定量的に一貫した結論が得られていないことが明らかになった。 そこで、既存のアンケートデータを用いて、地震リスクの認知と防災行動、地震リスク情報と主観的リスク認知の関係について実証分析を行った。その結果、主観的リスク認知が高まることで、防災行動の一つとして、地震保険への加入意志は高まり、地震保険への支払い意志額も高くなるという結果となった。また、Kask and Maani, (1992)などで理論的に示されている「発生確率の低い事象のリスクを過大に評価し,発生確率が高い事象のリスクを過小に評価する」というリスク認知バイアスを実際のデータでも観察することができた。さらに、このリスク認知バイアスは、正確なリスク情報を提供すると僅かながら改善することが示唆された。特に、リスク情報提供前においてリスク情報を十分に認知していない人に関しては、認知バイアスの改善は顕著であった。 このような結果から、現在、日本政府が重要視している「自助」や「共助」を主体とした防災対策への転換には、まず正確なリスク情報を提供し、リスク認知バイアスを少しでも解消させる必要がある。それにより、災害リスクを過少に見積もっていた人は、主観的リスク認知が高まり、地震保険への加入率が上昇すると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度までに、既存のリスク情報の提供と主観的リスク認知に関する理論研究、および主観的リスク認知と防災行動に関する実証研究を一定程度整理することができている。 また、既存のアンケートデータを使用した実証研究も進んでおり、主観的リスクが高まることで地震保険加入率が上昇することを示唆する結果や、客観的リスク情報の提供がリスク認知バイアスを改善するという結果を得られている。 一方で、今年度中に地震リスク認知と防災行動に関するアンケートを実施し、アンケートデータの整理、及び分析を行う予定であったが、アンケートの作成段階において精緻化を行う必要性が生じたため、アンケートの実施が遅れている。 以上のように、既存データを使用した分析は進んでいる一方で、アンケートの実施が遅れているため、「やや遅れている」といえるだろう。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究結果より、主観的リスクの上昇は地震保険加入の意志、地震保険への支払い意志額に対して正の影響をもたらす。また、客観的リスク情報の提供は、リスク認知バイアスを改善するという結果を得た。これは、ハザードマップ等の災害リスク情報を提供することで、認知バイアスが改善され、地震保険への加入率も上がるということを示唆するものであるが、果たしてハザードマップ等の公表と地震保険加入などの防災対策実施に因果関係が存在するかは定かではない。 そこでアンケート調査を行い、ハザードマップ等の公表が、防災対策実施に与える影響をより緻密に検証したい。そのために、既存のアンケート調査を改善し、早急にアンケートの実施を行いたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度中にアンケート調査を実施し、アンケートデータの整理、及び分析を行う予定であったが、アンケートの作成段階において精緻化を行う必要性が生じたため、アンケート調査の実施を行えなかった。したがって、次年度使用額が生じた。翌年度は、翌年度分として請求した助成金と次年度使用額のほとんどをアンケート調査の実施に費やす計画である。
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