本研究では、これまでにリスク情報の提供とリスク認知の関係について既存研究を整理し(Smith and Johnson(1988),Cameron(2005) ,Rheinberger and Hammitt(2018)など)、どのようなリスク情報を提供することでリスク認知の変化を測るべきかなど、アンケート調査の設計を緻密に行ってきた。2022年度においては、水害リスク認知の変化に関するアンケート調査を実施し、火災保険および水災補償に関する加入意思と支払意思額を訪ねた。特に、本研究では水害に関する情報を提供した後に,人々の水害に関するリスク認知、および防災対策行動がどのように変化するのかに関心があるため、情報の提供前後で加入意思と支払意思額を回答させることで、情報提供による水害リスク認知の変化を分析した。 その結果、全サンプルで水災補償への支払意思額の平均値は、情報提供後に約6633円から約7438円まで上昇した。また、情報の提供前後で浸水リスクの認知に乖離があったのかについても聞いており、考えていたよりもリスクが低かったという人は平均支払意思額が約510円下落し、考えていたよりリスクが高かったと答えた人は平均支払意思額が約841円上昇していた。これらは、平均的に水害リスクが過小評価されていたために、水害リスク情報の提供によってリスク認知が正しく修正された結果であると考えられる。 本来、水害リスクが十分に認知されていれば、情報提供前後で人々の行動は変わらないはずであるが、水害リスク情報の提供により、保険加入行動が変化したことが明らかなった。本研究では全期間を通して、人々は発生確率の低い事象についてはリスク認知にバイアスが生じやすく、適切な情報提供によってバイアスの修正が可能であることを明らかにし、今後、さらなる水害リスク情報の周知を進める必要があることを示唆する結果を得た。
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