本研究は時間選好のtime invariance(時点間で選択が変わらないという仮定)について金銭利得・非金銭利得(努力タスク)それぞれでテストを行い,どのような環境で時間非整合性の静的実験が正当化しうるか検討するものである.研究最終年度である本年度は,5月に Economic Science Assosiationの学会(韓国)にて発表を行い,そこでの議論を踏まえて追加の分析をし,最終的な論文執筆に取り組んだ. 論文では,個人のtime invarianceの逸脱がそれほど深刻でないこと,特に金銭利得では過半数の被験者がtime invarianceを満たしたことから,金銭利得に対する意思決定では時間非整合性の静的実験が正当化しうると結論した.一方,非金銭利得については平均的にはtime invariantな選択が見られたものの個人レベルでは逸脱が過半数であったことから,動的実験が妥当であると結論した.また,単調な効果ではないもののdelay sizeが十分に大きければいずれの利得であってもtime invarianceの逸脱の影響は小さいことが分かった.さらに,time invarianceの逸脱と属性,およびそれらの変化との関係の分析では,従来注目されてきた流動性制約の変化はviolationと正の関係にあるもののその程度は限定的で,一部の被験者が真にtime variantな選好を持っている可能性が示唆された.ただし昨年度の実験の流動性制約に関する属性調査は十分ではなく,今後新しい実証研究が望まれる.
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