研究課題/領域番号 |
20K22137
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
古田 駿輔 早稲田大学, 商学学術院, 助手 (40879673)
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研究期間 (年度) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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キーワード | 新制度派組織論 / 正統性 / 組織の存続 / 歴史的組織研究 |
研究実績の概要 |
本研究は、制度論的アプローチ(正統性の概念を中心)を用いて、組織の長期的な存続と衰退を分けるプロセスの解明を目的としている。本年度(2020年度)では、データ収集、文献調査、 理論研究の3点を実施した。 まず、映画産業における組織や作品を研究対象と設定したうえで、1954年~2016年に期間を設定して、観客動員数や興行収入に関するデータを収集した。加えて、調査対象を深く理解するための文献についても収集を行った。インターネットと書籍・論文の双方をベースにしたうえで、現象の時系列的な変化について整理・検討を行った。 文献調査では、これまでの研究で明らかになっている正統性と制度化のギャップに焦点を当てて文献調査を行った。文献調査を行った結果、明らかになった点は以下の2点である。第一に、新制度派組織論において、正統性の研究は、組織が正統性を獲得・修正できるという研究に集中していることである。そのため、組織の正統性の維持・変化という、組織が正統性を獲得した後の現象についてはあまり焦点が当たっていないことが明らかになった。第二に、制度化と正統性のギャップが生じるにおいて、audienceの存在が重要であることが明らかになった。 データ収集と文献調査を踏まえたうえで、先行研究の批判的検討と概念的枠組みの構築を行った。先行研究では、正統性の獲得や修正に表されるように、組織は正統性をコントロールできるという前提をもとに多くの研究が積み重ねられてきた。しかし、正統性は必ずしも、正統性をコントロールできるだけではなく、audienceによって正統性が変化する。この点に基づいて、仮説的な概念的枠組みを構築した。そして、この概念的枠組みをベースに、映画産業の事例分析を行った。 以上、これらの一部の成果については、論文にまとめたうえで国内外の学会で報告し、国内の学術雑誌に投稿している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究が順調であると判断できる理由として3点挙げられる。第一に、概念的枠組みの構築と事例分析を行えたからである。文献調査をもとに、正統性とaudience、制度化に関する概念的枠組みを構築した。そして、映画産業における組織と作品による事例分析を行い、概念的枠組みの精緻化を試みた。本研究成果により、一度獲得した正統性は、組織に負の影響を及ぼしている可能性を明らかにできた。第二に、これら一連の研究成果について国内外で研究成果を報告できているからである。概念的枠組みについては、経営哲学学会と英国経営学会(British Academy of Management)において報告され、その際の議論を通して、様々な知見を得ることができた。また、学会報告だけではなく、研究会等を通してもアドバイスを頂き、正統性の概念だけではなく、人工物(artifact)や社会的物質性(socio materiality)といった概念からの分析が可能かどうかについても知見を得ることができた。加えて、事例分析の研究成果についても、2021年6月に開催予定の組織学会で報告予定である。さらに、概念的枠組みの一部について論文を執筆し、国内の学術誌に論文を投稿できた。以上の2点を踏まえて、研究は順調であると判断した。 一方で、次の2点で課題も残った。第一に、事例研究において、インタビュー調査を行えなかったことである。第二に、概念的枠組みの構築において、人工物や社会的物質性を考慮できなかった点である。人工物や社会的物質性のアイデアを得たのは、2021年5月である。そのため、先行研究のレビューや概念の理解について不十分な点があり、概念的枠組みの構築において十分に検討することができなかった。このように、2点の課題も残ったが、当初予定していた研究作業を行えることができたという点で、本研究はおおむね順調に進展しているのである。
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今後の研究の推進方策 |
次年度(2021年度)では、理論研究、データ収集、定性分析、論文執筆・投稿の4つを中心に進めていく。まず、理論研究では、正統性の概念に加え、社会的物質性や人工物の概念に注目し、レビューと概念的枠組みの検討を行う。また、異なる視点からの検討として製品開発プロセスを援用した概念的枠組みを行うことも一つの方法として捉えているが、この点についてはさらなる検討が必要である。 データ収集では、インタビュー調査を中心に行う。2021年度も新型コロナウイルスの影響が想定されるため、研究出張や対面でのインタビュー調査が困難な場合には、オンラインによるインタビュー調査に切り替えていく。データ収集については、公開されているデータに加え、組織の内部資料などについても獲得できるように努めていく。 定性分析では、歴史的組織研究(Historical Organizational Studies)を中心に分析を進めていく。既に、歴史的組織研究について解説している文献(Maclean,Clegg,Suddaby and Harvey,2020など)を入手済みであり、文献に基づいたうえで定性分析を行う。ただ、歴史的組織研究はまだあまり広がっておらず、文献や他研究者の論文だけにのみ着目することは、定性分析を正確に行えないという欠点がある。この欠点を防ぐために、指導教員に加え、定性分析を経験している他大学の研究者から定性分析におけるアドバイスや指導を頂きながら研究を進めていく予定である。 以上の3点を踏まえたうえで、研究成果を論文として形にし、学会報告や学術雑誌への論文投稿・採択意を目指す。現時点では、学会報告は海外の学会を中心に行い、国内の学術雑誌に、論文を投稿する予定を立てている。この点については、適宜、指導教員と相談しながら、確実に論文として研究成果を出せるように計画を立てながら進めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初は、英国経営学会への参加やインタビュー調査のための旅費として使用計画を考えていた。だが、新型コロナウイルスの影響により、学会がオンライン開催へと移行し、対面によるインタビュー調査ができなくなったため、次年度使用額が生じてしまった。使用計画としては、海外学術雑誌への投稿を行う際の英語の校正や文献の購入費としての活用を考えている。
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