本研究は、資源管理の行為主体であるコミュニティが所与のものではなく、再編、再構築の過程にあるとき、コミュニティによる自然資源管理はどのように組み直され得るのかを事例に沿って検証するものである。具体的には、東日本大震災により甚大な被害を受けた地区を主な調査サイトとし、適宜他地域の事例も補完しながら、コミュニティの生成や再編成といったプロセスのなかで旧来の資源管理がどのように変動するのかを明らかにした上で、資源管理とコミュニティの関係をめぐる分析から、地域社会の持続可能性と回復力形成の諸要件について考察することを目的とした。 最終年度となった本年度は、震災から10年以上が経過した宮城県石巻市において、住民たちが取り組む集落跡地での杜づくりの事例を考察の中心に据えた。「復興」がもたらしたインフラ整備と集落の非居住地化が、土地の荒廃と場所の<非-場所化>をもたらしてきたメカニズムを分析し、住民たちが杜づくりを通して非-場所をあらたに場所化していくプロセスを考察した。杜づくりの活動を通じた健全な生態系の取り戻しとポリフォニックな空間の創出の先に、人びとはコミュニティの未来を描いている。この成果は学会誌上で論文として発表した。 集落の離散、移動、合併を余儀なくされた津波被災地においては、旧来の自然資源管理はそのままに持続するものではなかった。だがそのことは、コミュニティの再編過程において必ずしも前景化する問題ではなかった。研究期間を通じて明らかになったのは、場所の継承が困難化し、土地の荒廃が進行する社会において、新たな資源管理の実践を通じて醸成されつつあるゆるやかなコミュニティが、人びとの未来への選択肢を豊富化しているという事実であった。
|