本研究では19世紀後半のドイツで成立した労働者社会保険立法の特質を、「ポリツァイ」概念の転換という観点から歴史社会学的に考察した。特にドイツ社会政策の根幹である労働者保護制度において、公衆衛生や生産管理などを含んだ幅広い統治の実践・理念・法令を指す「ポリツァイ」がいかに政策レベルで縮減し再編されていったのかを分析した。分析の結果、「ポリツァイ」概念の縮小と法治国家理念の定着によって、労働者保護政策において長らく重要な役割を担っていた警察は徐々に業務範囲を縮小させたが、代わりに専門職としての労働監督官が代替的役割を担うようになり、むしろ行政権力は拡大していったことが明らかとなった。
|