研究課題/領域番号 |
20K22157
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研究機関 | 福山大学 |
研究代表者 |
丸山 友美 福山大学, 人間文化学部, 講師 (80882068)
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研究期間 (年度) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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キーワード | テレビ / ドキュメンタリー / プロダクション・スタディーズ |
研究実績の概要 |
本研究は、戦前・戦後を通じてNHK大阪放送局(以下JOBK)で形成される「上方」放送文化の展開を、「制作文化研究」の視角から明らかにすることを目的に持つ。初年度の2020年度は、新型コロナウィルス感染症の状況を鑑み、本研究が掲げる3つの研究テーマのうち、①紙資料および音資料(インタビュー)の収集・整理と、③個別の番組分析に注力した。 ①紙資料および音資料(インタビュー)の収集・整理では、これまで関東と関西にて渉猟・閲覧してきた広報資料や局内資料などの一次資料を放送事業者の足跡を検証可能にする史資料として評価するだけでなく、放送番組という文化的産物を生み出してきた人々の営みを表象したものとして「再-読」する作業に取り組んだ。こうした作業から見えてきたのは、経営者から局員へ提示される経営方針や組織編成、局員を組織内で分業化し専門化する人事異動、視聴者のニーズに対応するため不定期に行われる番組開発や編成改変というように、アイディアが構成され、番組が制作・放送されるようになるまでの組織内の決定と活動をめぐる「生活様式=文化」の有り様である。 ③個別の番組分析では、日本初のテレビドキュメンタリー・シリーズ『日本の素顔』(1957-64、以下『素顔』)の分析作業に取り組んだ。①の作業を通じて確認した「生活様式=文化」を踏まえながら、過去の放送番組を視聴して記述するというテクスト分析の方法によって『素顔』を新たな角度から見直すことを試みた。こうした作業から明らかになったのは、初期テレビドキュメンタリー史の重層性と複数性である。それはつまり、東京/大阪という制作場所のローカリティであり、男性/女性という制作者の文化的な性差(ジェンダー)であり、エリート/アシスタントという断層である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定していた計画で進行できているわけではないが、得られた知見に基づいて執筆した博士論文が審査を通過し、博士号を取得することができた。この博士論文をまとめる過程で新たに「初期テレビ制作現場における女性制作者の役割とその足跡」についても調査する必要を確認し、感染対策に十分に留意しつつ2020年度末より彼女たちへのインタビュー調査を開始した。また2021年度の発表に向けてふたつの国内学会に応募し、無事採択されており、本研究の完成を目指すという次年度の下準備が整った。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度は、予定通り本研究の完成を目指し、研究発表と成果論文の執筆に注力する。博士論文として一定の成果をまとめることはできたが、「初期テレビ制作現場における女性制作者の役割とその足跡」という2020年度の新たな着眼点を深めるとともに、まだ十分に調査・分析ができていない『社会の窓』(1948-54)や『時の動き』(1948-52)などを手がけた制作者たちの経験がどのテレビ番組にどのように接続されていったのか明らかにする必要がある。また、公的な議論から排除されている人々にカメラやマイクを向け、その姿や声を放送していく態度は、ラジオからの影響に止まらず記録映画やニュースからの影響も大きかったはずである。これを実証するためには、さらに資料を積み上げる必要がある。2021年度は、感染対策に十分に留意しつつ、関東と関西でのフィールドワークを実施する。 以上の調査・分析に取り組むことを通じて、2021年度はJOBK制作者たちの「声」を資料化するとともに、JOBKで形成されたドキュメンタリー制作の方途を「制作文化」として記述していく。こうした作業は、近年、欧米で盛んになっているメディア産業における「生産の文化Production Culture」を論じる文化研究と本研究を接続するためにも重要である。その代表例とされるのが、映画研究者のJ.コールドウェルらがすすめる「Production Studies制作文化研究」であるが、これら関連領域の英語文献を読み進めるのと並行して、Media Industries 2022など国際会議への参加を通じて日本の事例を広く提示し、意見交換を行うことで、最先端の研究を反映させたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルス感染症の拡大により、当初予定していた調査出張の回数を減らしたり、学会発表にかかる旅費がオンライン開催により使用できなかったりするなどの理由から、286,989円が次年度使用額として発生している。2021年度は、感染対策に留意しつつ、対面による聞き取り調査を関東と関西で実施する予定なので、この旅費や謝金などで使用したいと考えている。
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