研究課題/領域番号 |
20K22165
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研究機関 | お茶の水女子大学 |
研究代表者 |
有澤 琴子 お茶の水女子大学, 生活科学部, アカデミック・アシスタント (00813122)
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研究期間 (年度) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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キーワード | 酸化コレステロール / 飽和脂肪酸毒性 / 小胞体ストレス / NASH |
研究実績の概要 |
飽和脂肪酸と酸化コレステロールは、アルコール性脂肪肝炎(NASH)の病態の肝臓において特徴的に多く見られ、またNASH患者の食嗜好性からも過剰摂取となりがちな脂質成分である。これらの脂質は、それぞれ単独では肝臓における炎症や酸化ストレス、細胞死などに寄与していることが報告されているが、肝臓に同時に存在する場合の影響については知られていない。本研究では、飽和脂肪酸と酸化コレステロールの肝細胞への蓄積が、相乗効果的に肝障害を増悪する可能性を明らかにすることを目的としてきた。 (1) 飽和脂肪酸による肝細胞死を促進する酸化コレステロールの探索 25-hydroxycholesterol(25-OH)および27-hydroxycholesterolは、飽和脂肪酸と同時添加することでHepG2細胞の細胞死を増強させることが明らかになった。現在までに検討した酸化コレステロールは一部の種であるため、次年度以降、網羅的探索を引き続き行う予定である。 (2) 相互作用により増強される細胞死の分子メカニズムの解明 (1)で細胞死の増強効果が見られた酸化コレステロールのうち、25-OHと飽和脂肪酸の同時添加について詳細な検討を行なった。飽和脂肪酸の単独添加と比べ、25-OHと飽和脂肪酸の同時添加では、小胞体ストレス応答を介したアポトーシスが増強されることが明らかになった。また、小胞体ストレス応答経路のうちPERK経路を阻害剤(GSK2656157)を用いて阻害することでアポトーシスが減弱し、細胞生存率は飽和脂肪酸単独添加と同程度まで回復した。これらの結果から、酸化コレステロールの25-OHは、飽和脂肪酸と同時添加することで肝細胞における細胞死を亢進し、その経路としてはPERKの活性化を介した小胞体ストレス応答の増強が関与していることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに、HepG2ヒト肝癌由来細胞を用いて、飽和脂肪酸と同時添加することで細胞死を増強させる酸化コレステロールの探索を行なった。当初予定していた添加条件では細胞生存率が予想以上に大きく低下し、分子生物学的解析が困難であったため、比較的マイルドに細胞死の増強が起こる条件を検討した。現在は飽和脂肪酸のパルミチン酸を150μM、各酸化コレステロールは10μMの濃度で統一して研究を進めている。 本年度は、25-hydroxycholesterol(25-OH)および27-hydroxycholesterolが、飽和脂肪酸の細胞死を増強することが示されたため、当初の目的はおおむね順調に達成されていると考えている。酸化コレステロールは酸化部位の構造的な違いにより異なる機能性を持つことから、肝細胞の飽和脂肪酸毒性を増強する酸化コレステロールの網羅的探索については、次年度以降更なる検討が必要であると考えている。 また、これまでに細胞死の増強効果が見られた酸化コレステロールのうち、25-OHと飽和脂肪酸の相互作用により増強される細胞死の分子メカニズムについて検討した。その結果、25-OHは、PERKの活性化を介した小胞体ストレス応答を増強させることで、肝細胞における飽和脂肪酸による細胞死を亢進することが明らかになった。25-OHがPERKの活性化を増加させる機序については更なる検討が必要であるが、次年度に繋がる研究成果を出すことができた。
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今後の研究の推進方策 |
酸化コレステロールが飽和脂肪酸による小胞体ストレスを増強するメカニズムの詳細を明らかにするため、次年度は酸化コレステロールによる細胞内の脂質代謝変化に着目する。本年度の研究で、酸化コレステロールと飽和脂肪酸の同時添加により活性化が見られたPERKは小胞体膜タンパク質であり、小胞体膜の流動性の変化により活性が制御される可能性が報告されている。酸化コレステロールは、内因性の脂質代謝において重要な転写因子であるLXRのリガンドとして知られており、細胞内のコレステロール合成や脂肪酸合成などの脂質代謝に影響を与える。実際に、予備検討において25-OHと飽和脂肪酸を同時に付与したHepG2細胞では、飽和脂肪酸の単独添加と比べて飽和脂肪酸/不飽和脂肪酸の比率が大きく変化していた。そこで本研究では、酸化コレステロールが生体膜脂質の変化を介して、小胞体ストレスを増強する可能性について検討していく予定である。 また、当初の計画では2年目に脂肪肝モデルマウスに酸化コレステロールを与えた場合の肝障害悪化作用を検討する予定であったが、モデルの作製方法によって脂肪肝および肝毒性の発生機序が異なるため、培養細胞におけるメカニズムの検討を優先して進めた上で、適したモデルを選択する予定である。 肝細胞の飽和脂肪酸毒性を増強する酸化コレステロールの網羅的探索については、1年目の研究で添加条件を確立することができたため、同条件のもと検討を開始していいる。
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次年度使用額が生じた理由 |
参加を予定していた学会が延期およびオンライン開催になったため、学会参加費および旅費として申請していた予算に余剰が生じた。次年度も旅費等の予算は確保しているため、物品費として使用することを考えている。具体的には、当該年度の研究成果より膜脂質の解析に着手する必要性が見出されたため、生体膜の単離および膜脂質のイメージング関連試薬を購入する予定である。
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