飽和脂肪酸と酸化コレステロールは、アルコール性脂肪肝炎(NASH)の病態の肝臓において特徴的に多く見られ、またNASH患者の食嗜好性からも過剰摂取となりがちな脂質成分である。これらの脂質は、それぞれ単独では肝臓における炎症や酸化ストレス、細胞死などに寄与していることが報告されているが、肝臓に同時に存在する場合の影響については知られていない。本研究では、飽和脂肪酸と酸化コレステロールの肝細胞への蓄積が、相乗効果的に肝障害を増悪する可能性を明らかにすることを目的としてきた。 前年度までの研究結果により、25-hydroxycholesterol(25-OH)は肝細胞において、飽和脂肪酸による小胞体ストレス応答を増強させることで、細胞死を亢進することが明らかになった。また、阻害剤GSK2656157を用いた検討から、小胞体ストレス応答経路のうちPERKの活性化を介して細胞死亢進が起こることがわかった。 本年度は、細胞死形態の評価と小胞体ストレス経路以外の細胞死経路について阻害剤を用いた検討を行なった。その結果、飽和脂肪酸と25-OHの同時添加でアポトーシスが増強されることが確認された。また、阻害剤により酸化ストレスならびにフェロトーシスの阻害を行なったが、同時添加による細胞死は回復しなかった。これらの結果より、細胞死の増強効果には小胞体ストレス経路がかかわるという仮説が補強された。 また細胞内の脂肪酸不飽和度を調べたところ、25-OHの添加により飽和脂肪酸の増加が見られた。PERKの活性化は細胞膜の飽和脂肪酸/不飽和脂肪酸比により調節されることから、25-OHの添加による膜不飽和度の変化が、飽和脂肪酸毒性を増加させることが示唆された。
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