研究課題/領域番号 |
20K22169
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研究機関 | 東洋英和女学院大学 |
研究代表者 |
野田 潤 東洋英和女学院大学, 人間科学部, 講師 (60880755)
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研究期間 (年度) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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キーワード | 家族 / 愛情 / 食 / 弁当 / 愛妻弁当 / 一汁三菜 / 親密性 / 性別役割分業 |
研究実績の概要 |
「近現代日本で家族の食と愛情を強く関連付ける解釈枠組が一般の人々の間でいつ頃どのように成立・一般化し、現代に至るまでどう変容してきたか」を検証する本研究の目的から、新聞記事の通時的なドキュメント分析を行った。当初予定では『主婦の友』『家の光』といった雑誌記事の収集も考えていたが、2020年度はコロナ禍で所属機関外の図書館の利用が困難となったため、予定を変更し、分析対象は『読売新聞』『朝日新聞』とした。 分析では言説の大まかな布置とその通時的変化の把握のため、『読売新聞』のデータベース「ヨミダス歴史」および『朝日新聞』のデータベース「聞蔵Ⅱビジュアル」にて、キーワード・見出し・本文検索を行った。検索語は「腰弁」「愛妻弁当」「愛情弁当」「一汁三菜」「一汁二菜」「一汁一菜」「家庭料理」であり、検索期間は明治時代~現代までである。得られた記事から非該当を除外して件数と本文内容を精査した結果、得られた知見は以下の3点である。(1)1960年代半ばを転換点として「腰弁」という言葉が消え、代わりに「愛妻弁当」いう言葉が出現した。(2)それまで家計や衛生・栄養面から語られてきた妻の手作り弁当は、1960年代頃を境に愛情という論理で語られるようになった。(3)「一汁三菜」をキーワードに含み、日常食の必須要件として強調する記事は1970年代までは少ないが、1990年代以降、急激に増加した。 以上の分析からは、日本では1960年代頃に家族の食と愛情を強く結びつける解釈枠組が成立し、その後も家庭料理に対する社会的な要求水準が上昇しつづけていることが示された。 また2020年度はこれらの作業と並行して、後期近代社会における「親密性」および「個人化」、ならびに食についての先行研究を収集し、本研究の理論枠組を補強・精緻化した。さらに方法論関係専門書籍を収集し、ドキュメント分析の手法の精緻化を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の当初の計画では、まず新聞記事のデータベース検索によって時代による言葉の変容の大まかな傾向をつかみ、その後、該当時期の『主婦の友』『家の光』といった雑誌記事を収集し、その雑誌記事の内容を詳細に分析することを、メインの作業として考えていた。しかし2020年度はコロナ禍という想定外の状況が訪れたため、通常時と比較して、所属機関以外へ移動しての図書館利用および文献複写が困難になった。結果として、所属期間の図書館に所蔵されていない『主婦の友』や『家の光』といった雑誌記事の収集が難しくなった。そのため、急遽予定を変更し、所属機関において記事データベースを利用できる『読売新聞』および『朝日新聞』をメインの分析対象と設定しなおすことで、代替措置とした。 上記のような予定の変更によって、本研究の主たる分析対象は、明治時代以降の極めて長期間にわたる記事データベースを用いることのできる『読売新聞』『朝日新聞』の新聞記事となった。また、分析の際には新聞記事に用いられた言葉の数量的な変遷のみならず、記事本文の内容も詳細に検討することとした。 以上のような方針で、2020年度は対象資料のリサーチおよび全体的な概略をつかむための分析を進めた。まずは予備調査にて様々な検索ワードを試行した結果、新聞記事においても「家族の食と愛情を強く関連付ける解釈枠組の成立と一般化」を示す記事を、十分に収集できるということがわかった。そのため、分析対象として新聞記事をメインに据えることは可能であるとの判断に至り、資料の分析を進めた結果、現在ではおおむね当初の計画通りの分析を行うことができている。2021年度は当初の計画通り、2020年度に得られた知見を、さらに精緻化させていく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度は、2020年度に収集した新聞データベースの資料について、記事本文の内容の分析をいっそう精緻化させるとともに、時代ごとの特徴をさらに精査する。 また、新聞記事の分析から得られた知見に、どのような理論的な含意があるかといった点についても、考察をさらに深め、精緻化させていく。このために、後期近代社会における「親密性の価値の増大」および「家族の個人化」についての先行研究、ならびに食についての先行研究も引き続き収集・検討し、本研究の理論枠組を補強・精緻化していく。さらに方法論関係専門書籍も引き続き収集し、ドキュメント分析の手法の精緻化を行っていく。 なお、2021年度は、あくまでもコロナ禍の中で可能な状況が得られた場合ではあるが、とりわけ重要な変化が起きた時代の主婦向けの雑誌記事を補完的に収集・参照し、内容の比較を行うことで、分析結果をよりいっそう精緻化させることも考えている。補完的な収集を考えているのは『主婦の友』のうち、1917~1920年代前半・1960年代・1990年代のものである。主婦に対してどのような家庭料理を作ることが推奨されているか、特に献立の品数や手間、「一汁三菜」という言葉の出現頻度に注目したい。ただし、今後のコロナ禍の状況次第では、所属機関以外の図書館利用は引き続き平常時よりも困難であり続けることが予測されるため、雑誌記事の収集は断念し、新聞記事の分析に限定・集中する可能性もある。 なお、2020年度および2021年度に行ったこれらの調査・分析から得られた成果は、2021年度に開催される日本社会学会第94回大会(2021年11月13日~14日、ZOOMによるオンライン開催)において、一般報告として発表するとともに、査読付き論文雑誌に投稿する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度は参加した学会大会(日本社会学会大会、日本家族社会学会大会)が2つともオンラインでの開催となったため旅費が大幅に削減され、次年度繰り越しとなった。2021年度も同様に、参加予定の学会大会が2つともオンラインでの開催となる見通しのため、旅費は最終的に剰余が出る可能性が高く、その分を物品費へ回すことを考えている。 また2020年度はコロナ禍のため他大学へ移動しての図書館利用および文献複写が極めて困難となり、その結果、『主婦の友』や『家の光』といった雑誌記事の収集が難しくなった。そのため代替措置として、データベースを用いた新聞記事のドキュメント分析に研究の焦点を絞ることとなった。結果として、他大学に所蔵されている書籍および雑誌の複写に使用する予定であった印刷費、および移動に用いる交通費が次年度繰り越しとなった。 物品費(書籍)に関しては、2020年度に購入予定だった書籍のうち20冊ほどが絶版となっていることが判明し、購入不可能であった。これらの書籍は2021年度に、見つけ次第、古書で購入することを検討しているため、このための費用を次年度繰り越しとした。また書籍に関しては、2021年度も引き続きリサーチを継続し、購入が必要なものも多く見込まれるため、その分の費用を繰り越しとした。
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