本研究は、在日移民の同化についての研究が不足していることをふまえ、地域社会における移民受け入れの論理と移民の同化戦術の相互作用に着目し、日本の地域社会における移民の統合の様相を明らかにすることを目的としてきた。この目的を達成するため、2023年度は主に以下の2点の調査・研究を実施した。 ①日系帰還移民の日本社会における戦術的同化 本研究は在日移民のなかでも、日本からの出移民にルーツを持ち日本に「帰還」してきた人々である「日系帰還移民」に着目している。なかでも、2023年度は、中国帰国者の戦術的同化について検討し、その世代による変化を明らかにした。 ②エスニック帰還移民の比較研究 日系帰還移民について研究するなかで、他のエスニック帰還移民との比較の必要が生じたため、比較検討を行った。特に、移動の経緯が共通するドイツのアウスジードラーと中国帰国者の比較をし、冷戦がそれぞれの受け入れ政策が与えた影響の違いを明らかにした。 研究期間を通して、本研究は、日系帰還移民の日本社会への社会統合において、戦術的同化が果たす役割を検討した。その際、満洲移民やブラジル移民の出移民からつながるものとして現代の日系帰還移民の受け入れを捉え、地域社会と移民の歴史的な関係性をふまえた社会統合の議論の必要性を明らかにした。また、研究対象となった地域において、中国帰国者と日系ブラジル人が、いずれも日本にルーツを持つ帰還移民であるにもかかわらず、それぞれの持つ歴史(日本からの出移民の経緯やその後の移民先社会での経験、「帰国」までの経緯など)の違いのため、異なる扱いを受けていることを明らかにした。つまり、先行研究で指摘されてきたエスニック・ヒエラルキーが中国帰国者と日系ブラジル人のあいだにも見られることを明らかにした。
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