本研究は,エスノグラフィーの手法を用いて保育集団が持つ文化性と幼児間の言動様式の関連を検討することで,保育集団内にみられる幼児間の同調性の生成機序に関する実態把握を目的とする。これまで幼児集団の同調性は,[保育者-幼児間]の関係性の中で多くの検討がなされてきた。しかし,クラス規模の保育集団において同時多発的に発生する幼児間のやりとりから同調性を検討する研究については,記録すること自体の困難さから検討が少ない。本研究は,エスノグラフィーの手法を用いて幼児の保育集団内に生じる同調性を微視的に検討することで,幼児期の原初的な同調性の生成機序の実態把握を行なうものである。具体的には,(1)同調性を生み出す施設形態の文化性の違いを捉えること,(2)保育集団内の活動別にみられる幼児間の同調性の表出の違いを検討すること,という二点から幼児が表出する同調性の過程を微視的に検討していく。上記,幼児間の同調性の生成機序の実態を検討するために,2年半の研究全体の流れとして,初年度(2020年度)は,幼稚園,保育園,認定こども園という「施設形態の違いに見られる幼児の同調性」を捉えるため,参与観察にてデータを収集し結果の整理・分析を行なった。次年度(2021年度)は,上記施設形態の異なる施設での参与観察の継続と収集データの分析を行ない,幼児間の表出の実態についての検討・発表を実施するとともに,保育者への聞き取り調査を実施した。ただし,コロナ感染の影響で参与観察データが十分に取れなかったことを鑑み,最終年度(2022年度)には,対象として大学附属幼稚園を含め,引き続き参与観察及び聞き取り調査を通してデータを収集し,論文化を行なった。本研究を通して,「幼児間の同調性の生成機序」における保育の文化性,保育者の専門性に関して重要な指摘が収集された。研究結果は論文化とともに,実践者向けパンフレットを作成した。
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