研究課題/領域番号 |
20K22194
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研究機関 | 明治学院大学 |
研究代表者 |
原田 亜紀子 明治学院大学, 社会学部, 研究員 (20882583)
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研究期間 (年度) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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キーワード | デンマーク / 学校民主主義 / 主権者教育 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、デンマークの学校民主主義について、有効感や議論する力、意見表明や共同での意思決定の力の育成、社会とつながる学習、身近なテーマと政治のつながりなどを実現する仕組み、教師の支援、そして参加の過程や課題を実証的に明らかにすることである。 シティズンシップ教育の要素として、英国の「クリックレポート」では「社会的・道徳的責任」「社会参加」「政治的リテラシー」の3つが挙げられたが、このうち政治的リテラシーの育成が特に難しいとされている。本研究では、デンマークを事例に批判的思考や主体形成といった政治的リテラシー育成に焦点を当て、自らルールを作る主体形成の理念、学校生活や地域社会で意見表明や個人・共同で意思決定を行い、小さな変化を起こすことで有効感を感じる機会、またその仕組みがどう構築されているのか検討する。 デンマークでは学校自体が民主主義のモデルであるとされ、授業、学級運営、学校運営に生徒が参加する過程や仕組みが存在する。一方、学校民主主義の研究においては、形式は整っていても実質的に生徒に自由な発言権と影響力がない形骸化した生徒参加や、教師と生徒の非対称的な関係性やコミュニケーションが批判的に検討されてきた。デンマークの生徒主体の参加について、授業や生徒会、学校評議会の実態に迫り、またその課題を明らかにすることで、日本で様々な形で取り組まれている主権者教育実践や理論研究への一助となることを目指したい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
デンマーク、北欧諸国の民主主義教育、政治教育、生徒参加をテーマとした研究動向を整理し、また、生徒会や基礎学校の授業について把握するため、新聞、雑誌記事、教育省のwebサイト等から継続的に情報を収集した。その結果、以下が明らかになった。 1.北欧四か国のナショナルカリキュラムでは、「生徒の批判的かつ独立した思考の育成」と「対立する問題を解決するスキルや能力の開発」の2つに優先順位がおかれている。北欧諸国で導入されたドイツのBildung(人間形成、陶冶)の理念は、今日の国際社会の要請であるスキルや能力開発の文脈と融合している側面がある。2.民主主義、平等、進歩主義、総合制学校を特徴とする北欧の学校でも、市民として知識やスキルの修得には社会経済的な差異が反映される。様々な背景を持つ生徒の自由な発言や民主的な活動への参加を実現するには、教師の、授業で自由に言いたいことが言えず、学校での活動への参加が難しい生徒の困難さの理由を適切に分析する力量が求められる。3.デンマークの教師はイギリスなどと比較した場合、よりグループワークや探求学習を実践し、知識と批判的思考を重視する。教師は「シティズンシップ」よりも民主的な意思決定と参加を強調する。 「やや遅れている」を選択した理由として、主に以下の2点が挙げられる。 1.2020年度末に実施予定だった現地調査がCovid-19の影響により実施できなかった。2.政策文書や先行研究からは、スウェーデンやノルウェーにおける学校での生徒間のヒエラルキーや、生徒主導ではなく教師主導の教室での実践が指摘されているが、デンマークについては先行研究が見いだせず、また調査によるデータを利用した実証的分析ができなかった。
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今後の研究の推進方策 |
現地調査が可能になり次第、2020度末以降に予定していた以下の2回の調査を実施する 第一目の調査では、(1)地域でのつながりを持つ地域連合、全国規模でつながる全国連合をもつ生徒会に関して、学校での学級運営や学校運営といった学内での活動、地域や全国の組織間の横のつながりによる影響力や政策提言に関する活動や組織構造について、ユトランド半島に位置するオーフスにあるデンマークの義務教育段階の全国生徒会、首都コペンハーゲンにある後期中等教育段階の全国生徒会を訪問し、メンバーや地域代表にインタビューを行い、活動や全体像を把握する。(2)授業における身近なテーマと社会・政治とのつながり、教室での生徒の自由な意見表明の権利保障について、デンマーク、ノルウェー、イギリスで学校民主主義や生徒会の研究の蓄積がある研究者にインタビューを実施し、文献収集を行う。そのほか、第二回目調査で実施する学校調査のための情報を収集する。第二回目の調査では、第一回目の現地調査を踏まえ、義務教育課程である基礎学校3校と、後期中教育課程のギムナシウム2校での授業を参観し、参与観察を行う。そのほか教師と生徒へのインタビューや生徒会活動の参与観察も実施し、実証研究のためのデータをとる。 Covid19の感染状況によっては、上記の調査を可能な限りオンラインでのインタビューや情報収集に切り替える。 これまでの文献研究と二度の調査の成果を、学会発表と論文発表により公表する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度はコロナ渦で海外現地調査が不可能であったため、次年度使用額が生じた。調査可能になり次第、2020度末以降に予定していた以下の2回の調査を実施する 第一回目の調査では、1.デンマークのユトランド半島に位置するオーフスにある義務教育段階の全国生徒会、首都コペンハーゲンにある後期中等教育段階の全国生徒会での代表やメンバーなどへのインタビュー調査 2.授業における身近なテーマと社会・政治とのつながり、教室での生徒の自由な意見表明の権利保障に関するデンマーク、ノルウェー、イギリスで学校民主主義や生徒会の研究の蓄積がある研究者へのインタビューを実施と文献収集を行う。そのほか、次の現地調査で実施する学校調査のための情報を収集する。二回目の調査では、第一回目の現地調査を踏まえ、義務教育課程である基礎学校3校と、後期中教育課程のギムナシウム2校での授業を参観し、参与観察を行う。そのほか教師と生徒へのインタビューや生徒会活動の参与観察も実施し、実証研究のためのデータを収集する。 また、研究成果については可能になり次第、予定の合う国内・海外の学会での発表を予定している。
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