本研究は、学校民主主義について、授業、学級運営、学校運営に生徒が参加する過程や仕組みを、デンマークを事例として明らかにすることを目的とした。生徒会のミーティングの参与観察と、全国生徒会の代表、メンバー、各学校の校長、教師、生徒へのインタビューから、校長と教師、生徒間に日常的なコミュニケーションと信頼が成り立っている学校では、授業における生徒参加や自由な議論が可能となり、生徒会は形骸化したものではなく影響力を行使する組織として機能していることが明らかになった。授業ではテーマの選択や授業方法に関して、生徒の提案が取り入られることが日常的であり、生徒の教師への信頼は相対的に高かった。生徒会では、代表制の確保が大きな課題であり、生徒会メンバー以外の生徒を巻き込むためのオープンなミーティングの開催や、生徒自身による、生徒全体が関わるアジェンダ設定が共通して見られた。校長や教師は教育省の「ウェルビーイング」の調査を活用し、クラスや学校における生徒生活の質や生徒の要求を把握しようと努め、「生徒の声を聴く」理念を共有していた。 本研究の重要性と意義は、以下になる。民主主義が内包するトップダウンやヒエラルキーといった課題を乗り越えている学校では、1.教師・生徒の間の信頼関係の構築、2.生徒参加と代表制確保のための密なコミュニケーション、3.教師や生徒の自律性を尊重する校長のリーダーシップ、が実現されていたことが明らかになった。こうしたデンマークの実践は、日本のシティズンシップ教育や主権者教育、校則見直しの動きにとって示唆がある。また、本研究は、国内外で先行研究が少ない学校における子どもの権利や参加に関する実証的な研究へ寄与するものである。
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