研究課題/領域番号 |
20K22195
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
工藤 瞳 早稲田大学, グローバルエデュケーションセンター, 助教 (30880257)
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研究期間 (年度) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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キーワード | チリ / 教育バウチャー制度 / 学校選択 / school segregation / 学校包摂法 |
研究実績の概要 |
2020年度は新型コロナウイルス感染症の影響で現地調査はできなかった。しかし、2015年制定の学校包摂法を中心に、統計情報、関連法規、大統領談話、審議会報告書等を収集し、政策形成過程に関する情報、格差是正策の具体的な内容や実施状況を把握することができた。また、チリの研究者が執筆した書籍に関しては、電子書籍や海外からの洋書取り寄せにより入手することができた。 2020年度は、2015年度に制定された学校包摂法の(1)政策形成の背景と議論、(2)政策の内容、(3)政策実施状況とその影響を検討した結果、以下のことが明らかになった。 チリの学校包摂法は、1980年代に始まった新自由主義的教育政策下での教育における市場原理の浸透や、学校分断(school segregation)と呼ばれるほど深刻化した学校間の生徒の社会経済的棲み分けへの対策として制定された。同法制定により、教育における市場原理の終了と、学校分断対策のいずれにおいても、部分的には改善が見られる。しかし、教育バウチャー制度を維持し、生徒・保護者の学校選択を重視した改革であるがゆえに、市場原理を終わらせたというよりは「強化した」側面が見られる。また、学校選択自体に社会経済的地位による違いがあることなどから、学校分断対策としては課題も残ることが明らかになった。本研究で取り上げるチリの教育改革は、学校選択制や教育バウチャー制度を導入する国・地域、また学校間の生徒の社会経済的棲み分け解消に取り組む国・地域に示唆を与えるものである。 上記の研究成果は、第三世界の教育研究会(オンライン開催、10月)において報告した。また、学校包摂法の評価に関する論文も執筆し、2021年度中の発表を目指している。さらに、2021年度の日本比較教育学会大会において口頭発表(オンライン開催、6月)を行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「研究実績の概要」記載の通り、現地調査を行うことができなかったが、文献資料収集を順調に行うことができた。また、公共研究センター(CEP)やチリ大学のオンライン・セミナー、北米比較国際教育学会(Comparative and International Education Society)大会(オンライン)に参加し、最新の研究動向を把握することができた。得られた資料をもとに研究を進め、口頭発表・論文執筆を行った。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度は引き続き中等教育以下の格差是正策の実施状況を注視するとともに、2016年に導入された高等教育無償化政策の(1)政策形成の背景と議論、(2)政策の内容、(3)政策実施状況とその影響の3点に焦点を当てて研究を実施する。2021年度も新型コロナウイルス感染症の影響で現地調査が難しい可能性を考慮し、メール等での情報収集に加えて、電子書籍や海外からの洋書取り寄せによる資料収集、オンラインでの学会や研究会参加による最新の研究動向の把握に努める。 2021年度は、日本比較教育学会大会において口頭発表を行うとともに、2020年度の研究成果を論文として公表できるよう努める。また、高等教育無償化政策に関しても、口頭発表や研究成果の論文化に向けて研究を進めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の計画ではチリでの現地調査・資料収集を予定していたが、新型コロナウイルス感染症の影響で渡航調査ができなくなったため、旅費分の次年度使用額が生じた。この次年度使用額は、渡航調査が可能な場合には2021年度の旅費や現地での文献購入費用とする。ただし、2021年度も新型コロナウイルス感染症の流行状況次第で渡航調査が難しい可能性がある。その場合は、助成金は2020年度に引き続き電子書籍や海外からの洋書の取り寄せなどによる文献購入費用に充当する。また、オンラインでの国際学会やチリの研究会で参加費が必要な場合にも使用予定である。
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