本研究は、戦後西ドイツおよび再統一ドイツの教育課程研究の歴史について検討するものである。2021年度においては、1920年代よりドイツのレーアプラン研究の理論的基盤を構築し、現代ドイツの教育課程研究にも多大な影響をもたらしているエーリッヒ・ヴェーニガー(Erich Weniger)を特に取り上げ、1960年代以降に米国よりカリキュラム研究が輸入される以前のドイツの教育課程研究の到達点と課題について研究した。その成果は『大阪成蹊大学紀要』に掲載されている。 ヴェーニガーはヴィルヘルム・ディルタイ(Wilhelm Dilthey)の精神科学(Geisteswissenschaft)に由来する精神科学的教育学(Geisteswissenschaftliche Paedagogik)を代表する人物である。ヴェーニガーはディルタイの普遍妥当的教育学への批判を援用しながら、レーアプランにおける内容決定の普遍妥当性を批判し、それまで構想されていた宗教あるいは国家のみによって教育内容を正当化しようとする言説を退けた。さらにヴェーニガーは国家、学問、教会などの学校外のアクターや、教師・生徒間における、教育内容に関する対立をレーアプランの中に見出し、教授学の分析の俎上に置く。こうしたヴェーニガーのレーアプラン理論について、レーアプランが国家や学問、教師や生徒の対立のなかで紆余曲折を経つつ、国家に統制されながら生じていくとした彼の主張を、その理論的基盤とともに解明した。
|