本研究では、障害のある児童生徒に対する特別な教育領域である自立活動の指導における実態把握と授業立案に着目し、専門性の高い教師が、どのような観点で対象児童生徒の実態把握を行い、自立活動の目標・内容を導き出しているのかについて、一連の思考様式を解明することを目的とした。また、実際の指導にあたっては、ティームティーチング等の体制において、複数教師が共に授業を実施することが多いため、授業者間での理解や意図の相違が生じることがある。そのような相違の有無や、対応方法についても調査した。 2020年度~2022年度にかけて、選定基準に照らして選出した特別支援学校教師象教師10名に対してオンラインによるインタビュー調査を実施した。主な質問項目は①個人での実態把握や目標設定について、②集団での実態把握や目標設定について、③葛藤と調整について等である。調査の結果、実態把握の観点として、教室での動き方や物の持ち方などの日常生活動作、教師や友達からの働きかけに対する反応、教室移動等の環境の変化(光や音,場所,匂いなど)への感覚器官の反応(目,表情,動く部位,体の動き,力み,皮膚の感じ)など、児童生徒の全体像をとらえ、様々な思考をめぐらせながら実態を把握していることが明らかとなった。また、複数教師間での意図や理解の相違については、対象教師全員が日常的に相違を経験しており、その際の対応としては、「指導においてゆずれないポイント」でのズレに対しては共通理解がはかれるように働きかけを続けていくと共に、「許容できる範囲であると判断されたこと」に関する相違に対しては、「同僚教師の意向を最大限に尊重する」対応をとっている教師が多いことが明らかになった。対象教師は、語りの中で授業は教師と児童生徒との関わり合いであるため、「正解がない」とその不確実性ついて語り、判断と選択を絶えず繰り返していることが明らかになった。
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