研究課題/領域番号 |
20K22210
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研究機関 | 東京学芸大学 |
研究代表者 |
大森 一三 東京学芸大学, 教育学部, 研究員 (20826557)
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研究期間 (年度) |
2020-09-11 – 2023-03-31
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キーワード | 哲学 / グローバル・シティズンシップ教育 / 多元主義 / カント / 哲学教育 / 成熟 / 徳倫理学 |
研究実績の概要 |
令和3年度は本研究の主要テーマである「グローバル・シティズンシップ教育」の理念の解明について、現代の徳倫理学からのカント倫理学批判とその応答をめぐる研究を批判的に考察することによって研究を進めた。現時点までの本研究の成果として、2つの考察の成果を挙げることができる。第一の考察の成果とは、カント倫理学において徳の重要性を論じる主張は、徳倫理学者たちがカント倫理学批判を行う際に典拠としてあげる『人倫の形而上学の基礎づけ』や『実践理性批判』といったいわゆる批判的倫理学ではなく、彼の実践哲学全体、とりわけ「教育論」のなかで展開されているということである。つまり、一方で、普遍的義務を強調するカント倫理学に対して、徳倫理学の側からはカント倫理学が形式主義的であり、感情や徳の重要性を看過しているという批判が行われるわけであるが、他方でカントの実践哲学全体を見渡すならば、カントは『人倫の形而上学』や『教育学』の中で、徳を含む倫理的性格の陶冶の重要性とそのあり方についても論じているのである。第二の考察の成果とは、そうしたカント倫理学における徳を陶冶する「教育」の理念の最大の特徴は、「世界市民主義的な性格」を持つということを明らかにしたことである。なお、ここで言われる世界市民主義的な特徴とは、自己(自文化/自国)中心性からの脱却と他者および多元主義的な価値の尊重という性格を持つ。したがって、本研究は現時点までに、カントにおける「世界市民的教育」の理念がこうした多元主義的な価値を尊重できる主体の育成という側面を持ちつつ、かつ同時にカント倫理学固有の形式的普遍主義も併せ持つものであることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度の研究成果は、現代思想研究会での口頭発表および「日本カント協会第46回大会シンポジウム」のパネリストとしての発表を土台として遂行および発表された。なお、本研究の内容は2022年刊行予定の『日本カント研究』第23号に掲載される予定である(タイトル:「徳への問いと批判哲学の射程―カントの世界市民的な徳の教育―」)。また、本研究の他の成果は「世界市民的教育の理念と啓蒙の課題の解明の試み」(『法政大学文学部紀要』第84号所収)のなかでも論じた。
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今後の研究の推進方策 |
残りの研究期間では、こうした特徴を持つカントの「世界市民的教育」の特徴を、同じく多文化における複数的倫理を主張したW・ディルタイとの比較考察を通じて、より一層探求してゆく。さらに、こうした形式的かつ多元主義的な教育の理念は、今日の諸文化・諸宗教対立の間で、どのような倫理的・教育的意義を持ちうるのかを考察してゆく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2021年度内における緊急事態宣言や新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、予定していた出張計画および研究者招聘とそれに伴う謝金の予定が延期となった。延期となったものの一部については、次年度以降で開催する予定である。また、購入を予定していた海外の書籍等の購入も遅延したため、次年度以降に購入を予定してい る。
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