研究課題/領域番号 |
20K22210
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研究機関 | 東京学芸大学 |
研究代表者 |
大森 一三 東京学芸大学, 教育学部, 研究員 (20826557)
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研究期間 (年度) |
2020-09-11 – 2024-03-31
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キーワード | 哲学 / グローバル・シティズンシップ教育 / 多元主義 / カント / ディルタイ / 哲学教育 |
研究実績の概要 |
令和4年度は本研究の主要テーマである「グローバル・シティズンシップ教育」の多元主義的理念の解明について、前年度までの成果をさらに発展させて計画を進めていった。とりわけ本年度の成果としては、次の3点が挙げられる。第一に、カントの教育学および倫理学と今日の徳倫理学との比較考察を通じて、カント教育学に込められた世界市民性の陶冶という理念が、地域的/水平的だけではなく時代的/垂直的な意味でも多元主義的であることを明らかにした。第二に、こうしたカント教育学および倫理学の諸特徴をディルタイの教育学および倫理学と比較、対照することにより、これまで国内の研究においては十分明らかにされていなかったディルタイ倫理学の特徴や主要論点を浮かび上がらせた。第三に、カント教育学および倫理学とディルタイの教育学および倫理学との比較考察により、両者の思想の共通点と相違点とを明らかにした。すなわち、カントおよびディルタイは、道徳教育の哲学的考察のレベルにおいては、道徳的な法則を導出し、かつそうした法則に従うことができる理性の陶冶ではなく、むしろ自らの道徳的諸規範を相対的・批判的に捉え、他者と対話し、修正を図ってゆくことができる道徳的心術の陶冶を重視していた点では共通している。相違点としては、カントの場合はそうした道徳的心術を「世界市民性の陶冶」として提示するのに対し、ディルタイの場合は歴史的共同体における国家的道徳という位置付けになる点が異なる。このような両者の相違点がさらにどのような点で交錯してゆくのかを明らかにするためには、さらなる研究が必要である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は当初の研究計画通り、カントの世界市民主義教育の多元主義的特徴について、多角的な観点から明らかにすることができた。とりわけ現代の徳倫理学との比較だけではなく、ディルタイ教育学および倫理学との比較を通じて、両者の諸特徴を明らかにすることができたのは大きな進展であった。なお、本年度の研究成果は、『日本カント研究23』および『ディルタイ研究33』に掲載されている。
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今後の研究の推進方策 |
残りの研究期間では、本年度の計画を引き継ぎ、カント教育学における世界市民主義教育の多元主義的な意味を、ディルタイとの比較考察を通じてさらに研究してゆく。また、こうした世界市民主義の多元主義的な意味が時代を通じて持ちうる普遍的な意味とはなんであるかを明らかにしてゆくことを試みる予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
緊急事態宣言や新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、予定していた出張計画の予定等が延期となった。延期となったものの一部については、次年度以降で実施する予定である。また、購入を予定していた海外の書籍等の購入も遅延したため、次年度以降に購入を予定している。
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