本研究では、就学後に学習面、対人面にて困難さが予想されるADHDハイリスク児に対して、その認知的特徴や干渉抑制課題遂行時の前頭前部活動の傾向を捉えることによって、早期発見、早期支援について知見を得ることを目的とした。新型コロナウイルスの流行により、近赤外線スぺクトロスコピーによる課題遂行時の脳活動の計測を実施することができなかった。そのため、特に認知面での特徴に焦点を当てた検討を行った。その結果、ADHDハイリスク児においては、言語理解、知覚推理、ワーキングメモリー、処理速度といった認知機能のうち、ワーキングメモリーにおける困難さが顕著に表れることが明らかになった。このことは、就学後に教室における教師の一斉指示への聞き取りの困難さ、マルチタスクや順序性のある課題などに対する苦手さにつながると予測される。ワーキングメモリーの困難さは幼児期においても、所属園においても、ゲームのルールが理解できない、一斉指示を理解して、指定された行動ができないなどの状態像として表出している。一方で、家庭においては、日々のルーティーンができているために、保護者としては、特に困難さを感じていない場合も多い。これらの結果から、ADHDハイリスク児の早期発見、早期支援のためには、家庭と所属園の連携、および、両者の困難さを多面的に支援するために、保健センターや療育施設との連携が求められると考えられる。さらに、知覚推理と言語理解との間に有意差が見られた。自閉スペクトラム症などの発達障害では視覚的な情報の操作に優れているとの知見もあるものの、本研究では言語面での相対的な強さが見られた。これらのことから、ハイリスク児においては、自身の思いや考えていることを言語化できるものの、一見して全体指示を聞いていないように見えてしまったり、プリント課題などの視覚的な課題において困難さが表出する可能性があると推測される。
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