研究課題/領域番号 |
20K22234
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研究機関 | 九州女子短期大学 |
研究代表者 |
鄭 修娟 九州女子短期大学, 子ども健康学科, 講師 (10882897)
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研究期間 (年度) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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キーワード | 養護教諭 / COVID-19 / 一斉休校 / 学校再開 / 分散登校 / 学校保健安全法 |
研究実績の概要 |
本研究は、新たな学校の危機的状況を踏まえ、学校の中で「周辺的存在」として位置付けられてきた養護教諭の専門性を再検討することにより、学校危機管理をめぐる「専門的」なエビデンスの構築をめざすものである。 本年度は、コロナ禍の学校の危機対応時期を三つに区分し、各時期別に学校内で求められる養護教諭の役割はどのように変化したか、想定外の危機的状況下で、養護教諭が最も負担と感じられた「新しい業務」は何であり、学内外でどのような個人、組織(機関)と連携しながら、それを乗り越えようとしたか等、コロナ禍における養護教諭の業務実態を把握することを目的とした。そのために、福岡県(政令都市を除く)の小中高校及び特別支援学校を対象に質問紙調査を実施した。具体的には、①前首相による一斉休校要請(2020年2月27日)の直後の対応、②特別措置法下(2020年4月~5月)における対応と学校再開に向けた取り組み、③緊急事態宣言解除後より学校再開後までの対応(特に分散登校の体制、保健室経営の変更等)について調査を行った。このような業務内容に関する項目とともに、養護教諭の自宅勤務や年休取得の状況に関しても合わせて把握することができた。 質問紙は、選択式より直接記入してもらう記述式項目を比較的に多く配置させ、客観的内容とともに、1年間を振り返りながら養護教諭自身が率直に感じたこと、例えば一斉休校後に見られた子どもたちの様子の変化、感染症予防対策を講じるうえで感じた学内意見調整の難しさ、従来とは異なる保健指導上の課題と保護者への対応に関する解答を得ることができた。さらに、教員個人の感想や気づきだけでなく、地域別に休校決定や分散登校の導入において差が見られる点、地域別に養護教諭が連携している組織(機関)が異なる点、そのような地域の場合、教育委員会と学校(管理職)との関係にも特色がみられる点などを検討することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、新型コロナウイルスの流行のため、当初計画していた県外の学校調査や海外渡航調査の実施はできなかったが、その代替策を探り、研究成果を上げることができた。 まず、オンライン会議システムを用いて韓国教育開発院(KEDI)との共同教育政策フォーラムを開くことができた。新型コロナウイルスの流行は、グローバル問題であり、日本国内の事例収集や情報整理だけでなく、海外の状況、特に日本と教育事情が類似している韓国の事例を参照することは必要不可欠な作業である。本フォーラムでは、日本と韓国の学校・教師がCOVID-19とどのように向き合ってきたかをテーマとして、オンライン上で意見交流の場を設けることができた。KEDIは日本の国立教育政策研究所に該当する組織として教育政策立案における中心アクターであり、現地の状況と政策的対応、保健教師(養護教諭)を中心とした学校内の感染症予防体制の構築等について新たな知見を得ることができた。 また、現地調査の代替策として福岡県内の養護教諭を対象に質問紙調査を実施することができた。その結果、従来、医療・保健の専門家としての役割より、比較的に「心のケア」といった学校カウンセラーの役割に重点が置かれてきた養護教諭の業務内容が、コロナ禍を経て徐々に変化してきていることが読み取れた。さらに、対面でのインタビュー協力も得られ、養護教諭への聞き取り調査と時期別の対応が記されている資料を収集した。 最後に、研究者が所属している大学の卒業生を中心に研究協力ネットワークを構築することができたのも初年度の調査の成果であった。本研究の目標を達成するにあたって、現職教員との協力関係を形成・維持することは最も重要である。 このような点から、初年度は当初計画していた現地調査等は実施できなかったものの、その代替策を探りながら、研究成果を上げており、おおむね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
新型コロナウイルス収束の見通しがまだ立たない状況であり、2021年度も県外の現地調査及び海外(韓国)渡航調査は実施できない可能性がある。そのため、オンライン会議システム等を活用し、インタビュー調査を実施できるよう、研究協力の承諾が得られた養護教諭及び海外の研究者(機関)とのやり取りを進めながら、当初の予定をできる限り順調に進めていく予定である。 なお、年度前半は前年度までに得られた質問紙調査のデータ解析とそのまとめに取り組むとともに、成果発表を行うことを目指している。現在、事務局幹事を務めている日本教育経営学会COVID-19対応特別委員会が主催しているマンスリー研究会(オンライン)を成果共有の場とし、前年度のデータをもとにコロナ禍における養護教諭の業務内容と学校の危機管理における養護教諭の今後の役割について報告する予定である(7月または8月)。その際に、指定討論者(アドバイザー)として、コロナ禍で先進的な動きを見せていた福岡県内の小学校の養護教諭を招待し、フロアとの意見交換を行うことにより、調査結果をより深く考察することができると考える。ここでの成果報告は、大学紀要または学会年報に投稿できるように学術論文としてまとめる。 次に、前年度調査の継続として、政令指定都市である福岡市と北九州市に対しても質問紙調査を実施する予定である。すでに、質問紙の配布は終了しており、今後、集まる結果を項目別に再度整理し、前年度の調査結果と比較することによって、自治体別の対応策にどのような特徴がみられるのか、それを規定する要因は何かに関して考察を深めていく。そこで、研究の理論的枠組みの整理・分析に比重を置きながら、本研究が最終的に目指している養護教諭養成課程への貢献を達成できるように取り組んでいく。また、理論的枠組みの充実と新たな問題提起ができるよう、韓国側との研究交流も継続していく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度は、当初計画していた県外への現地調査や海外渡航調査を実施することができなかったため、旅費に割り当てられていた予算を次年度に繰り越すこととなった。また、海外研究者の招待(人件費・謝金)や関連学会への出張(旅費)も実施が難しかったため、その分の予算も初年度に使用することができなかった。 次年度も新型コロナウイルスの流行状況によっては、現地調査や海外フィールド調査等が難しいと判断されるため、当該予算の大部分はオンライン会議のための物品(高性能カメラやマイク・スピーカー)の購入、また時間制限のないオンライン会議システムの導入等に使用して、当初の計画に沿う研究成果を上げるよう取り組む予定である。 さらに、オンライン研究会や会議に招待する予定の現職教員、海外を含む現地の研究者(研究協力機関)に対する謝礼金、またオンライン研究会開催に向けてのポスター制作や案内文の配布等に必要な印刷・郵送代にも割り当てる予定である。最後に、研究成果を発信するための報告書作成に相当な予算が必要であると考えられるため、その分の費用を意識して予算を適宜使用していく計画を立てている。
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