研究課題/領域番号 |
20K22234
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研究機関 | 九州女子短期大学 |
研究代表者 |
鄭 修娟 九州女子短期大学, 子ども健康学科, 講師 (10882897)
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研究期間 (年度) |
2020-09-11 – 2023-03-31
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キーワード | 養護教諭 / COVID-19 / 学校保健安全法 |
研究実績の概要 |
2021年度は、前年度に続き、政令指定都市(福岡市・北九州市)の学校(185校)を対象に質問紙調査を実施した(5月~6月)。コロナ禍で一斉休校から学校再開までの時系列に沿って養護教諭の仕事の内容、役割の変化について記憶や経験が風化しないうちに、記録・分析することを目的とした。回収件数は約100件程度で、回収率は芳しくないものの、自由記述欄などには養護教諭の本音も見え隠れする記述(語り)が読み取れた。また、調査協力が得られた現職の養護教諭とも連絡をとり、インタビュー調査を加え、研究会への招待を行い、ラポールを形成することができた。 2年間の調査結果については、日本教育経営学会・COVID19対応特別委員会主催の第8回マンスリー研究会(オンライン)にて発表し、学会員との研究交流を行った。特に、調査協力が得られた現職の養護教諭を指定討論者として招き、2年間のコロナ禍で経験した出来事と記憶を語ってもらいながら、フロアとの議論を進めた。 当該研究会では、養護教諭が学校内外において単独で行った(行わざるを得なかった)コロナ対応、学内での協力者(相談相手)、学外での養護教諭研究会の活用等について調査から得られたコメントを中心に報告した。 本研究の大きなテーマともかかわる学校保健安全法の成立後における養護教諭の役割に関しては、特に学校内感染病対策とそれに対する学校長の裁量権限、教職員の業務体制についての議論を行うことができ、法制度と現実(学校)との乖離が浮き彫りになったとともに、そのような困難を乗り越えるための養護教諭(ネットワーク)の工夫についても話し合うことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2021年度は、初年度に計画していた政令指定都市の学校を対象とする質問紙調査を実施することができ、2年間の調査結果を学会の研究会で発表した。本研究は、学校保健安全法の成立後における養護教諭の役割変容を明らかにすることを目的としている。2年間に渡り行った調査結果からは、コロナ禍という予想外の危機が訪れ、非日常が日常になりつつある最中で、養護教諭の学校内での位置づけのみならず、人間として持つ悩み、不安等、表面的には読み取れない語りを記録として収集することができたと考える。 従来、学校内で周辺的存在として認識されてきた養護教諭が学校保健の専門家として全面に登場する一方で、常に変動するコロナ対策について養護教諭としての専門知識が求められること、日常の感染対策だけでなく、学校行事などの感染対策すべてにおいて意見を求められ、手探りで対策を考えながら、心理的負担、疲労を感じていたことがうかがえた。 さらに、行政から要請される感染症対策に追われながらも、自主的な研究会活動を通じて、対策を講じようとする様相もみられ、学校の危機管理においては行政や管理職のリーダーシップが比較的に強調されてきたことに対し、教職員の自主研究会や学外のネットワークにも焦点をあてる必要性を提起できたと考える。 1990年代以降、養護教諭の役割や専門性に関しては、相談やカウンセリング的な対応といった心や精神面の支援へと変貌してきた側面があるが、コロナ禍を経て、学校における唯一の医学的・看護学的素養を持つ「教師」という側面が重視されるようになっていることも読み取れた。このように、本研究が当初計画していた質問紙調査及び現職教員とのラポール形成、学会での成果発表を順調に進めてきた。
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今後の研究の推進方策 |
初年度および昨年度の調査を通じて、現場の教員より行政側の危機管理能力と責任を問う声が数多く見られた。この点から未曾有の危機的状況下で学校の自主性、自律的判断をどこまで求めるべきか/求めることができるか、ということを今後検討していく必要がある。また、養護教諭は学校内で「一人職」でありながら、学校安全・保健にかかわるすべての場面で専門家としての判断が求められている。個人の能力に任せるのみでは、子どもの安全を守るに当然、限界があり、教員の研修機会等の待遇措置、人員不足に対する制度的な補完も必要不可欠であると考える。 この点、日本国内のみならず、外国の事例をも参照しながら糸口を探る必要があるが、特に、近隣国である韓国との比較は、有意義であると考える。韓国では、コロナ禍で、養護教諭(韓国名は保健教師)の複数配置や待遇措置が行われており、日本の現状に示唆する部分も大きい。当初、韓国との制度比較は2年目に予定していたが、変異株の流行により渡航がかなわなかった。だが、コロナ感染状況はまだ油断できないが、すでに韓国はWithコロナに計画を変更し、調査を行うには以前より容易な環境が整いつつある。そこで、2022年度は、主に海外の事例調査に力を入れる予定である。 また、初年度より研究交流を進めてきた韓国教育開発院(日本の国立教育政策研究所に当たる)の関係者へのインタビューや現地調査も予定しており、コロナ禍での教育政策過程を実証することで、日本との政策・制度比較も可能となると考えられる。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していた国内外の現地調査がオミクロン株の流行によりかなわなかった。また学会や研究会への参加、関係者へのインタビュー調査等をすべてオンラインで実施していたため、計画していた旅費を使用できなかった。今年度は、渡航可能となった韓国への調査を積極的に実施するとともに、現地でのインタビュー調査に基づく日本との制度・政策比較を行い、調査結果を学会で発表することを計画している。
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