今年度は、二年間実施してきた質問紙調査(福岡県内の小中高)の追跡調査として、その対象を広く想定し、九州圏域内に所在する小中高(全920校)に郵送による調査を実施した。 初期の調査では、コロナ禍の中で全国一斉休校から学校再開までの時期に、養護教諭としてどのように向き合い、どのように乗り切ってきたのか、その経緯を記録することを目的とした。これに対し、今年度は「学校再開後」に焦点を当てて、感染に対する危機感が社会的にも鈍感化されていく一方、今でもなお先行きが見通せない不安を抱えながら、教育活動を停止しないよう最前線で行う実践の様相を記録・保存することを試みた。調査の結果、173件の回答が得られ、回答率は芳しくないものの、関連する教育資料を入手することもでき、新しい日常としてウィズコロナ下の学校現場において、養護教諭という立場からの工夫・対応、それに伴う負担や悩みを把握することができた。調査から収集したデータは、未曾有の危機にあたった学校現場における実践的対応を「記憶」するための学術成果として年度別にアーカイブしている。今後、個人情報に留意し、ホームページ等での限定公開を検討している。 次に、水際対策で実施できなかった韓国での調査も可能となり、民主化以降の学校保健に関する資料を閲覧し、また現職教員へのインタビュー調査を行った。政権交代に伴う教育政策理念の変化、養護教諭の配置数からみる学校保健領域の拡大について把握することができた。教員へのインタビュー調査からは小規模校での感染症対策及び養護教諭の役割について話を聞くことができた。特に、日本との共通点も垣間みられ、小規模校ではむしろ教育行政からの指針に従わざるを得ず、養護教諭が主導的に対策措置を取る裁量を持ちつつも、学校全体での意見共有が極めて難しく、分散登校も実施されなかった点など、日本の事例と共通する部分について検討することができた。
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