研究課題/領域番号 |
20K22245
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研究機関 | 岩手県立大学 |
研究代表者 |
田村 篤史 岩手県立大学, ソフトウェア情報学部, 准教授 (00882002)
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研究期間 (年度) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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キーワード | ICT / GeoGebra / GRAPES / 非ユークリッド幾何 / 実験数学 / 主体性 / 試行錯誤 |
研究実績の概要 |
本研究では,「自分で考え,自分なりに納得する(主体性)」という姿勢を養うための数学実験・実験数学の教材を開発し,どのような試み(方法・教材)が,どのような場面で,どの程度の有効性をもつのか検証し,また,主体性を養う過程でどのような能力が影響しているのか等についても検討することによって,数学学習における生徒の主体性の涵養を目指し,新たな知見を得ることを目的とする。 まず,教材開発については,非ユークリッド幾何を題材にし,動的幾何学ソフトウェアGeoGebraと関数描写ソフトウェアGRAPESによる実験が可能な教材を開発した。具体的には,真っ平らなどこまでも続く平面を仮想地球とし,①崖の上から海を見たとき,水平線は見えるか,②海面上に観測者に向かって放物線が下に凸に描かれているとき,観測者にはどのように見えるか,を問うものである。GeoGebraやGRAPESを用いて生徒が試行錯誤しながら実験を行い,問いに対する予想を行えるようにデザインした。 非ユークリッド幾何は,人間の直観がおよびにくい分野であるため,論理的思考力の養成に適した分野であると考えられる。直観がおよびにくいということは,思考過程を視覚化しづらいということでもある。この点についてGeoGebraやGRAPESを利活用し,生徒が実験しながら数学モデルを構成し結果を予想していくため,主体性の涵養へつながるものと期待される。 また本教材は,学校数学の延長線線上にありながらも,無限の概念を直接的に扱うため,生徒の知的興味・好奇心を刺激するものと考える。 時間的な余裕があれば,近年注目されているプログラミング言語Juliaを用いることで,シミュレーションを教材に取り入れ,大学の幾何学教材としての開発も視野に入れる方針である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
教材開発については,非ユークリッド幾何を題材にすることにより,以下の特徴をもたせることができた。①思考実験である,②無限の概念を含んでいる,③連続性の概念を含んでいる,④ゼノンのパラドクスを内包している,⑤「実在しないが見える」という事例である,⑥円錐曲線の切断面に帰着できる,⑦スケッチすることの数学モデルを作る 「無限に広がる平面」を仮想地球とすることで,平行線が無限遠点で交わって見えるなど,生徒の多くが未体験と思われる数学をGeoGebra等を用いて比較的容易に視覚化できる。また,設定や問いがシンプルでわかりやすく,現実の延長線上にありながらも無限の概念を扱っているため,生徒の想像力を刺激し,知的興味・好奇心を引き出せるものと予想する。一方で,われわれがものを見ることや,スケッチすることを数学モデルとして表現しなければならない。高校生の教材として,これらの観点で新規性をもつと考える。開発した教材おける問いは,当然のことながらすべてを机上で解決することもできるが,そのような授業では「形式的に」論理を追うだけの生徒も現れると思われる。立体図形の目視による確認ができることは,真に納得するための支援になると考えられ,この点はコンピュータ使用の大きな長所である。新課程では「総合的な探究の時間」や「理数探究」が設置され,生徒の興味・関心等に応じて主体的に課題を解決することが期待されている。本教材を実験数学および数学モデル化の教材として提案し,生徒の主体性涵養につなげていきたい。 上に記したように,価値のある教材が開発できたと考えているが,授業実践の日程については協力校と調整中であるため,確定しておらずこの点については予定よりも遅れが出ている。 教材の内容については,全国数学教育学会第53回研究発表会(2020年12月)および数学教育学会2021年度春季年会(2021年3月)で発表した。
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今後の研究の推進方策 |
筆者が,県の事業(いわて学びの改革研究業)の担当になったことに伴い,研究協力校は当初の予定(盛岡市内の県立高校)から変更になった(奥州市内の県立高校・SSH指定校)。研究協力校の県立高における授業実践予定が未確定であり,この点については研究の進捗が予定より遅れている。協力校については,他校にも依頼していく予定であり,複数校での授業実践を目指したいと考えている。 授業実践を経て次の3点について検討を行う予定である。実践結果以外の点については論文の執筆を進めており,授業実践および分析が済み次第,査読付き論文誌に投稿する予定である。①主体性を養うための,どのような試みが,どのような場面で,どの程度の有効性をもつのか。②主体性とその他の能力(評価の要素)との相関・因果等。③主体性と生徒の数学的活動の遂行の成功度に係る諸資質との相関・因果等。 評価の要素とは以下の8つの能力を指す。①主体性:自分の意志によって物事に取り組もうと思える力。自分で考え,自分なりに納得する力。②理解力:実験の方法と内容,ソフトウェア等の使い方を正しく理解する力。③実行力:「知りたい」という気持ちから行動を起こす力。目的を設定し確実に行動する力。④問題発見力:現状を分析し目的や問題を明らかにする力。問いを立てる力。⑤計画力:問題解決に向けたプロセスを明らかにし準備する力。⑥実験遂行力:現状を正しく認識・分析する力。実験に必要な計算力やコンピュータを操作する力。⑦対話力:相手の意見を丁寧に聴く力。意見の違いや立場の違いを理解する力。⑧発信力:自分の考えをわかりやすく伝える力。事実と予想・意見を区別して伝える力。 授業実践および分析が順調に進み時間的な余裕が生じれば,近年注目されているプログラミング言語Juliaを用いてシミュレーションの要素を教材にもたせ,大学における幾何教材として再開発を行いたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
作成教材による授業実践を令和2年度中に実施できなかったことに伴い,統計分析のためのソフトウェア(SPSSのオプション等,426,000円)を購入しなかったため。 授業実践は令和3年度の1学期中に実施できる見込みであるため,上記ソフトウェアはその時点で購入する予定である。
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