本研究においては,射影幾何学,球面幾何学,タクシー幾何学に関する教材を開発した。いずれも動的幾何学ソフトウェアGeoGebraを用いた実験を通して理解を深める仕様にしている。このうち,射影幾何学の教材については「実験→数学モデルの構成・改良→数学モデルの共有→課題の発見→実験」というサイクルを用いて,生徒が問題解決に近づき,興味や自信を育むように設計した。また,教材は①思考実験である,②無限の概念を含んでいる,③連続性の概念を含んでいる,④ゼノンのパラドクスを内包している,⑤「見えるが実在しない」ことを体験する,⑥円錐の平面による切断面(円錐曲線)に帰着できる,⑦スケッチすることの数学モデルを作る,の7つの特徴をもち,想像力(創造力ではない)を刺激するとともに論理性の涵養に役立つ,わが国では報告例のない新しい提案ができたと考えている。様々な事情によって授業実践を行うことができなかったが,教材提案に関しては,査読付き論文として採録された。 球面幾何学の教材については,球面三角形の内心・外心・重心と平面三角形のそれとを比較し,生徒が自らそれらの違いを発見するように設計し,指導学生が県内SSH指定校で高1の1クラスに対して授業を3時間行った。タクシー幾何学の教材については,GeoGebraのマクロを用いて,タクシー幾何をモデルとした東大の入試問題を主体的に解けるように設計し,別の指導学生が県内進学校の高1の6クラスに各2時間,高2の6クラスに各2時間の授業を行った。それぞれが現場の先生方から高い評価をいただくとともに,日本教育工学会春季全国大会でその成果を報告した。学生らが行った授業において質問紙調査を行ったところ,相関分析やt検定等の統計分析を用いることによって,GeoGebraの有効性とともに,各教材が学力の低い層にも働きかけ,興味や主体性を引き出すとの示唆を得た。
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