研究課題/領域番号 |
20K22263
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研究機関 | 国立障害者リハビリテーションセンター(研究所) |
研究代表者 |
宇野 智己 国立障害者リハビリテーションセンター(研究所), 研究所 脳機能系障害研究部, 流動研究員 (40881785)
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研究期間 (年度) |
2020-09-11 – 2023-03-31
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キーワード | 認知神経科学 / 視覚単語認知 / 経頭蓋磁気刺激 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,素早い読みの背景にある認知神経学的基盤の一端を解明することで,読字障害(発達性ディスレクシア)の早期発見・介入に資する知見を提供することである。読みについての伝統的な認知神経学的モデルは,文字の音韻・発話処理を担う皮質部位(i.e., 左下前頭回)の活性化に,早くとも300 ミリ秒程度かかることを仮定してきた。しかしこの時間は,実際の読み速度と比較すると遅く,読みの背景機序を十分に説明できなかった。一方で近年,同じ領域がはるかに速い約100ミリ秒で活動するとの報告が続いており、読みの神経モデルを根本的な見直しが迫られている。本研究課題では,この前頭の神経活動の読みに対する因果的・機能的貢献を明らかにすることを目指す。 前年度に引き続き実験を行い,24名の参加者を対象とした経頭蓋磁気刺激(TMS)実験を実施することができた。この実験では,TMSを特定の時間帯に適用し,単語の読みを要する/要さない課題に対する影響を調査することを目的としている。結果として,左半球の下前頭回に対して刺激提示後100-200 msで磁気刺激を行った際,単語を音読する課題の成績が悪化することが見出された。一方でこの妨害効果は音読課題で特に顕著であり,単語の意味カテゴリを判断することや,文字の物理的な色の判断を求めた場合には生じなかった。これらの結果は,左下前頭回の早い活動が,文字の音読に特異的かつ因果的に貢献することを示唆するものである。 この成果については,年度末に開催された国際学会で発表を行い,現在学術雑誌への投稿に向けて準備中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
COVID-19の感染拡大に伴い,実験室実験の実施が困難な状況が続いた。年度を通してTMS実験を行い,十分な統計的検出力を担保するための実験参加者数はほぼ確保したものの,当初予定していた論文投稿までには至らなかった。また当初は,読みにおける左下前頭回の詳細な機能的意義を検討するための脳機能画像研究の実施も予定していたが,前述のTMS実験の難航に伴い計画の修正や実施に時間を要していることから,計画は遅れていると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
TMSを用いた研究課題については,引き続き論文投稿準備を進める。 また,当初予定されていた脳機能計測研究に速やかに着手する。データが出そろった時点で結果が統計的に支持されるかどうかを確かめ学会等に報告する。ただしCOVID-19の感染状況によっては,実験装置を保有している施設への立ち入りが困難になるため,そうした場合は行動指標を用いた実験や追加のTMS実験を行う等,別の措置を考案する。
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次年度使用額が生じた理由 |
関連する国際学会(Cognitive Neuroscience Society)で研究成果を発表するための旅費を計上していたが,COVID-19の感染拡大に伴い令和2,3年度ともオンラインでの参加となったため,当該旅費が発生しなかった。また物品の一部も,所属機関に既存の機材および資料を用いて研究を進めること出来たため,支出が抑えられた。 次年度使用額については,データ収集や,英文校閲を含む論文投稿費として使用する。
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