研究実績の概要 |
内容:ヒトが適切な行動パターンを学習するには、自分が過去に取った行動とその結果生じたイベントを記憶する必要があると考えられる。しかし、行動に関連するエピソード記憶が他の外的イベントの記憶とどのように区別され、適切な学習が可能となっているかについては明らかでない。これまで本研究では、行動の実行時に提示されていた刺激が何もせず見ていただけの刺激よりも思い出されやすいことが明らかにされた。また、実際に行動を行ったときだけでなく、行動の準備段階においても同様に記憶の促進が生じうることを示した。当該年度においては行動と結果が結び付けられる知覚的メカニズムの研究を深化させ,ベイズ因果推論の枠組みで計算論モデルを用いた実証的検証を行った。また,ヒトがこれまで経験したことのない新たな運動とその結果の関係を獲得する過程を明らかにした。 重要性:本研究で得られた知見は行動と記憶のインタラクションの新たな側面を示すものであり,将来的に行動と記憶に関する理論の発展に貢献することが期待される。特に、従来の研究が行動と刺激の時間的近接性のみに焦点を当ててきたのに対し、本研究では先行刺激や行動結果といった行動と刺激の機能的関係から分析する枠組みが有用であることを示した。行動による記憶促進の可能性は,環境との主体的なインタラクションを重視するアクティブ・ラーニング等の教育効果についても理論的根拠を与えうる。本課題を通じて得られた知見に基づいて,2報の論文がオープンアクセスの査読付き国際ジャーナルに掲載され(Tanaka et al., 2022, Frontiers in Psychology; Tanaka, 2024, Scientific Reports),加えて1報を投稿中である。
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