研究課題/領域番号 |
20K22274
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研究機関 | 中京大学 |
研究代表者 |
井関 紗代 中京大学, 経営学部, 助教(テニュア) (60879922)
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研究期間 (年度) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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キーワード | 所有感 / 心的シミュレーション / 身体化認知 / 新商品 / 日本語版心理的所有感尺度 |
研究実績の概要 |
新商品は消費者に非常に受け入れられにくく,しばしばマーケティングにおいて失敗を招く。特に,類似した商品がなく,技術革新などによって生まれたまったくの新商品(really new product; RNP)は過少評価され,受け入れられにくい。本研究では,RNPに対する所有感(psychological ownership)の生起に着目し,RNPの使用を心的にシミュレーションすることで疑似的に所有感が高まり,その結果,新商品が受容されることを想定し,そのプロセスを解明することを目的とする。 当該年度は,2つの研究を実施した。研究1では,心的シミュレーションの中でも,身体化心的シミュレーションの効果に着目した。例えば,利き手側にフォークが置かれたケーキの画像は,利き手と逆側にフォークが置かれた画像に比べ,ケーキを食べる行為の心的シミュレーションが促進される(Elder & Krishna, 2012)。また,道具の画像を見るだけで,脳の運動前野が賦活することからも明らかなように(Chao & Martin, 2000),身体化心的シミュレーションは,自動的に誘発され,認知負荷が小さいことが示唆される。実験は,(RNPの向き: 利き手側,利き手と逆側)の1要因参加者間計画で行った。加えて,商品に対するもともとの関心の個人差も要因に含め検討したところ,もともと関心が低い場合のみ,RNPが利き手側に向いていると,購買意図が高くなることが示された。これらの結果について,日本認知心理学会消費者行動研究部会第1回研究会で口頭発表を行った。 また,本研究の遂行において,所有感を正確に捉える尺度が必要であると考え,研究2では,「日本語版心理的所有感尺度」を作成した。研究結果を論文にまとめ,現在査読中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
身体化心的シミュレーションと物語的心的シミュレーションという2つのアプローチでRNPに対する所有感の生起を検討するという研究計画のうち,すでに前者が実施されただけでなく,所有感を正確に捉えるための日本語版心理的所有感尺度の作成にも着手している。さらには,その日本語版心理的所有感尺度についてまとめた論文が査読中である。今後は,それらの尺度を用いて,後者である物語的心的シミュレーションがRNPに対する所有感の生起に及ぼす影響ついて検討することが可能である。これらのことから,本研究は,おおむね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
RNPに関する知識の程度にかかわらず,自己と関連した心的シミュレーションを行うと,その心的シミュレーションの物語性(Escalas, 2004)が高まり,移入が生じることで,RNPに対する所有感および評価が高くなることを明らかにする。具体的には,RNPの広告を呈示し,心的シミュレーションの主体が自分であるよう教示される群と他者(友人)であるよう教示される群において,群間を比較する。自己主体の心的シミュレーションを行った場合,RNPに関する知識の程度にかかわらずRNPへの所有感が生起し,評価が高くなることが予測される。 本研究を論文にまとめ,Frontiers in Psychologyに投稿する。また,Association for Consumer Researchで発表する。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナの影響で予定していた国際学会に現地で参加することができず,旅費などの使用額が減ったため,次年度使用額が生じた。これらについては,英文校閲料および学術誌掲載料として使用する計画である。
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