好奇心が喚起されている時,記憶成績が向上することはよく知られている。しかしながら,好奇心が喚起されるとき,如何にして記憶亢進が生じているのかという背景の理解は不十分である。本研究では,好奇心と対照的な状態である退屈に着目し,退屈状態から好奇心状態への遷移を利用して,好奇心によって記憶亢進が生じる背景プロセスの解明を目指している。そのため,まずは,退屈状態から脱しようとするときの状態が好奇心喚起状態に近い状態と言えるのかどうかを検討する必要があった。 昨年度,実験参加者に退屈な課題を遂行させ,その状態に耐え難い場合はボタン押下によって異なる刺激(ネガティブ刺激を含むと事前に教示)が出現するという課題を行った後に記憶課題を実施することで,好奇心喚起状態と同様に記憶亢進が生じるかどうかを検討する予備実験を試みたが,退屈状態・及び退屈回避行動は見られたものの,記憶亢進を検出するには至らなかった。本年度は課題を修正し,改めて退屈回避行動を計測し,退屈の感じやすさ(退屈傾向)や好奇心の感じやすさ(好奇心傾向)といった個人差との関連を検討した。結果として,退屈回避行動の頻度は,退屈傾向とは相関しないが,好奇心傾向と正の相関を示すことが明らかになった。このことから,退屈回避行動は,単に退屈な気分ではなく,好奇心によって誘発されている可能性がある。今後退屈回避行動前後の記憶への影響を検討することで,好奇心状態への遷移と記憶の関連を明らかにしていく必要がある。また,昨年度は好奇心喚起による記憶亢進現象を再現出来なかったが,今年度は刺激を修正することで現象の再現に成功した。ここで作成した課題と刺激をもとに,記憶のどのような側面が強化されるのかなどを明らかにしていく必要がある。
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