本研究では,休憩の効果を最大限に得る過ごし方を提案するために,脳が休憩状態の時に生じるマインドワンダリング(外界の環境とは関係のないぼんやりとした思考;以下MWとする)に着目して,①休憩中に思考内容の拡散程度が高いMWが生じることの機能的利点,②拡散程度の高いMWの神経科学的特徴,③拡散程度の高いMWが生じている休憩中の行動について明らかにすることが目的であった。 今年度は,計画通り研究1を実行し,①休憩中に思考内容の拡散程度が高いMWが生じることの機能的利点を明らかにするために,Webパネル調査を行った。具体的には,参加者の抑うつ傾向と創造性,MW中の思考の拡散程度およびMW傾向を測定し,これらの変数間の関連を検討した。 分析の結果,創造性の指標の1つは,MW傾向とMW中の思考の拡散程度の両方と弱い正の関係を示した。また,抑うつ傾向は,MW傾向とは中程度の正の相関関係を示した一方で,MW中の思考の拡散程度とは,有意な相関関係を示さなかった。この結果から,MW中の思考の拡散程度は,創造性の高さと関連する一方で,抑うつ傾向とは関連がないことが示された。 複数の先行研究により,創造的な問題解決に行き詰った後の休憩期間中にMWを行うことで,その問題解決が促進されることが示されているが,同時に,MWはネガティブ気分や抑うつとの関連が示されており,精神的健康を害することが懸念されていた。本研究の知見から,休憩中に思考内容の拡散程度が高いMWを行うことで,精神的健康を害さずに,創造性を増進できる可能性が示されたことは,非常に意義深いと言える。
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