研究実績の概要 |
本研究では, 言語性幻聴の生起メカニズムに関する複数のモデルを認知神経科学的手法で検証するとともに, 最終的にはそれらのモデルを統合及び具体化した新たな言語性幻聴のモデルを提案することを目的としている。そのために, 本研究では, 「統合失調症者に見られる自発発火や内言の異常が言語性幻聴を引き起こすのであれば, それらの異常に関連する脳活動は実際に音声を聴いている時の脳活動と類似した特徴を持つ」という仮説を立てて実験的検討を進めている。 当該年度は, 男性の発話音声「いちぶぶん」(基本周波数80 Hz)を聴取する際の脳活動を健常者及び統合失調症患者を対象として計測を進めた。健常者を対象とした脳波計測では, 音声信号の振幅包絡と微細構造に同期して生じる遅い(4-8 Hz)脳波の律動的変化と速い(80 Hz)脳波の律動的変化(θ, γオシレーション)を計測し, 両者の間に有意な正の相関があることが明らかになった。安静時脳活動については, 閉眼覚醒時の脳波, 内言時の脳活動については, 「いちぶぶん」という声を思い浮かべている際の脳波計測を行なった。現在, 統合失調症患者のデータ収集を進めており, データが集まり次第, 安静時脳活動や内言時の脳活動データも含めて健常者との比較を行う予定である。 脳磁図を用いた実験については, すでに実験環境を整え, 健常者を対象とした予備的計測を進めている。予備実験データの分析を進めており, データ取得が始まり次第, θ, γオシレーションの信号源解析が行える状況である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
脳波を用いた実験では健常者のデータは収集済みで, 統合失調症者を対象とした実験も開始している。健常者のデータをまとめるために解析環境をすでに整えているため, 統合失調症者のデータが集まり次第, 両軍の結果を比較することが出来る。脳磁図を計測しながら同様の課題を行う準備もすでに整えているため, すぐに開始することが出来る状況である。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き統合失調症患者における自発脳活動, 内言時の脳活動, 音声聴取時の脳活動を脳波計を用いて計測し, 神経オシレーションの分析を行う。同様の実験を脳磁図でも実施し, 神経オシレーションの発生源となる脳領域を特定する。最終的に脳波や脳磁図のデータを分析結果をまとめて, 幻聴症状の重い統合失調症者において, 自発脳活動や内言時の脳活動が音声聴取時の脳活動に類似しているのかを検討していく。
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