本研究では,多動・行動障害の共感性について解明するため,自然発症的に特異な情動反応性を有するTsukuba情動系ラット (H系/L系) の援助行動について検討した.行動課題では,ストレス状況に晒された同種他個体 (刺激個体) を被験体 (観察個体) が観察しているときに,観察個体が刺激個体を助け出すかどうかを調べた.研究1では,電撃をストレス刺激として用いた援助行動課題をWistarラットに実施した.その結果,刺激個体へのストレス強度が強くなるほど援助行動の獲得が促進することが示された.一方で,課題中の援助行動の表出頻度が低いことから,実験事態のさらなる改善が求められる.研究2では,拘束状況をストレス刺激として用い,不快刺激が存在する迷路内で拘束管に閉じ込められた刺激個体を観察個体が救出するかどうかを調べた.その結果,比較対象であるWistarラットに比べてL系が速やかに援助行動を獲得することが示された.この結果は,一見L系が優れた共感能力を有する可能性を示しているが,観察個体が刺激個体を救出するために不快刺激に接触する必要があるという実験事態で検討したことから,多動性やストレス刺激に対する感受性の低さといった,L系特有の行動学的特徴が課題成績に大きく影響した可能性がある.研究3では,水をストレス刺激として用い,H系,L系およびWistarラットの援助行動について検討した.この課題では,水を張ったプールに浸されている刺激個体を隣接区画にいる観察個体が観察しているときに,観察個体が刺激個体をプール区画から解放するかどうかを調べた.その結果,Wistarラットと比べてL系の援助行動の獲得が遅延することと,H系が援助行動を獲得しないことが示された.この結果は,発達障害において援助行動やそれを動機づける共感性に関わる社会的認知機能に失調が生じている可能性を示している.
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