睡眠が学習において重要な役割を果たす可能性が示唆されている。若年成人を対象とする一連の研究から、睡眠中の自発脳活動が学習促進と定着において重要な役割を果たすことが示唆された。しかし加齢に伴い、学習に関連する睡眠中の自発脳活動は変容し、オフライン学習に影響する可能性がある。本研究では高齢者における学習機能の回復を目指し、睡眠中の自発脳活動の非侵襲的な操作方法を開発し、オフライン学習への効果を調べることを目的とした。昨年度から続き、高齢者群・若年者群において加齢に伴い影響を受ける学習機能を検討した結果、一貫した結果が得られた。運動技能課題の訓練後に、高齢群でも若年群でも有意に向上していた。しかし睡眠後には、若年群では有意に向上していたが、高齢群では、有意な向上はみられなかった。これらのことから、加齢により、訓練に関わるプロセスではなく、オフラインの(睡眠による)プロセスがとりわけ影響を受ける可能性、さらに学習の促進が低下する可能性が考えられた。今年度はさらに、リアルタイムで睡眠中に音刺激を提示するオンラインフィードバックの環境を構築した。ノンレム睡眠のN2およびN3に出現した睡眠紡錘波を検出(13~16Hz)し、検出された睡眠紡錘波に対して、音刺激提示から1秒以内に出現する睡眠紡錘波とその他の睡眠紡錘波に分類し、活動の強さを算出した。その結果、音刺激提示1秒以内に出現した睡眠紡錘波は、その他の睡眠紡錘波に対して、振幅や持続時間が有意に異なっていた。睡眠紡錘波には、オフライン学習における役割だけでなく睡眠維持においても貢献することが知られている。音刺激提示による睡眠紡錘波の振幅と持続の変化が、学習プロセスに関わるのか、または睡眠維持のプロセスに関与するものであるのか、今後、厳密な検討が必要である。
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