研究課題/領域番号 |
20K22304
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
石橋 典 東北大学, 理学研究科, 助教 (30881718)
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研究期間 (年度) |
2020-09-11 – 2023-03-31
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キーワード | クラスター代数 / 高階Teichmuller理論 / スケイン代数 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、Teichmuller 理論およびその高階化に関する幾何学をクラスター代数を用いた組み合わせ論的な観点から明らかにすることである。 本年度はミシガン州立大学のLinhui Shen氏、芝浦工業大学の大矢浩徳氏との共著論文 (以下、本共著論文) において高階Teichmuller空間に関連した「飾り付き捻れG-局所系のモジュライ空間」(以下、単にモジュライ空間) の関数環のクラスター構造を調べた。 本共著論文では、モジュライ空間の関数環が(曲面およびゲージ群に関する弱い仮定のもとで)Wilson線の一般化行列式により生成できることを示した。また、これらの関数がクラスター単項式として表示できることを示し、結果としてモジュライ空間の関数環が対応するクラスター代数および昇クラスター代数 (upper cluster algebra) の両者と一致することが分かった。特にクラスター代数と昇クラスター代数の一致は基本問題であり、Muller'16によるSL(2)の場合の結果、およびShen-Weng'21による多角形の場合の結果を統合し拡張する結果となった。 また、昨年度は京都大学の湯淺亘氏との共著論文においてSL(3)の場合にモジュライ空間の量子関数環 (=quantum upper cluster algebra) の幾何学的なモデルとしてKuperbergのsl(3)-スケイン理論に基づいた代数を導入した。しかしながら、これらの代数の一致は(曲面が非常に簡単な場合を除き)未解決の予想として残っていた。本共著論文では、Wilson線の考察に基づき、これらが古典極限では等しいことが示せた。特に古典sl(3)-スケイン代数のグラフ基底がクラスター代数の基底を与えることがわかる。この基底をトロピカル点と対応させ、Fock-Goncharov双対性を得ることは今後の課題である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
昨年度の時点では、SL(3)の場合にモジュライ空間の量子座標環とスケイン代数との一致は非常に不透明であった。(昨年度の実績報告では「これらの代数が同型となることを示した」と記述していたが、これは後に代数的議論にギャップがあることが判明した。) Linhui Shen, 大矢浩徳両氏との共著論文においてはこれらの代数の古典極限が一致することが示せたが、この手法はSL(3)に限らず (いくつかの例外型を除けば) 一般の単連結半単純代数群の場合に通用するものである。実際、本共著論文ではSp(4)の場合にも同様の結果が成立することを示した。今回得られたWilson線に関する考察、種々の公式は当初の計画以上にスケイン理論への示唆に富んでおり、低ランクのものに限らずより一般のゲージ群についてクラスター代数とスケイン代数の関係を論じる土壌が整ってきたように思われる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究実績の入力時点では、東北大学の狩野隼輔氏との共著論文により非有界sl(3)-ラミネーションの幾何的実現を得た。これはKuperbergのsl(3)-ウェブの端点に適切な符号(スパイラル)の情報を載せたものとして定式化される。曲面が針孔を持たない場合、湯淺亘氏との共著論文およびLinhui Shen, 大矢浩徳両氏との共著論文の結果と合わせるとSL(3)の場合にはクラスター代数 (=モジュライ空間の関数環) の基底をsl(3)-ラミネーションでパラメトライズすることができる。これが実際にFock-Goncharov双対性の条件をみたすかどうか調べることは今後の課題である。 また、Sp(4)の場合に量子座標環のモデルを与えるスケイン代数の構成に取り組んでいる。これに対応するようなsp(4)-ラミネーションを考察することも今後の課題である。また、より一般のゲージ群の場合についてもWilson線を用いた関数環のクラスター構造に関する結果を応用し、スケイン代数との関係について調べていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスに関連した活動形態の変化のため、計画していた国内および海外出張費の使用を取りやめた。 次年度は状況に注意しつつ国内の研究者と研究討議および研究打ち合わせを行い、次年度使用額を国内出張費に充てる。また、東北大学への異動に伴う環境整備のための物品購入に充てる。
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